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社説・コラム

社説 ウクライナ情勢 冷戦に逆戻りせぬよう

 これで本当に和平へと結びつくのだろうか。

 紛争が泥沼化していたウクライナで、同国政府と親ロシア派武装組織が、15日から停戦に入ることで合意した。

 しかし合意の後も、各地で戦闘がやまない。親ロ派が支配地域を広げるため、期限ぎりぎりまで攻撃を続けるとの見方も出ている。こんな状態で長期的に停戦が維持できるのか、心もとない限りだ。

 両者は昨年9月にも停戦で合意したものの、すぐに破棄されて紛争が再燃した経緯がある。今度こそ双方が歩み寄るよう国際的な働きかけを強めたい。

 新たな停戦合意は、ウクライナ政府軍と親ロ派がそれぞれ停戦ラインから重火器を引き離し、幅50キロ以上の緩衝地帯を設けることや、東部の親ロ派支配地域に「特別な地位」を付与することなどが柱だ。

 だが、親ロ派の支配地域をどう確定するかなど難題は残ったままである。停戦を急ぐあまり、対立するポイントを棚上げした感も残る。

 「特別な地位」については、ロシアがウクライナの内政に干渉する口実を与えることにもなろう。これでは、紛争の火種はくすぶり続けると言わざるを得ない。

 懸念するのは、ウクライナ情勢をめぐって、米国とロシアの間で不信感と対立が依然として続いていることである。

 プーチン大統領は今回、「ウクライナ危機は、ロシアのせいではない。自ら冷戦の勝者だとする米国と西側同盟国の試み」と述べたとされる。

 わざわざ「冷戦」を持ち出した真意はなにか。プーチン政権になり、ロシアは大国として復活しつつある。旧ソ連から独立した国々への影響力を強め、米国の一極支配にも対抗したいのかもしれない。しかし力により一方的に国境を変えることが、国際社会で正当化されるはずがあるまい。

 何より危惧されるのは、「力には力で」の発想の延長線にある核武装の考えである。冷戦後の国際社会は、曲がりなりにも核軍縮を進めてきた。しかし米ロの対立が続けば、核兵器で脅し合う考えが復活しかねない。

 実際、ロシアの外相は昨年、すぐに撤回したとはいえクリミアへの核兵器配備に言及した。またウクライナでもロシアに対抗するため核武装論が一部にある。さらにロシアは昨年、ウクライナをめぐる米国との対立から、新戦略兵器削減条約(新START)に基づく査察を拒否し、核軍縮が滞った状態である。このまま冷戦時代のように核をめぐる緊張関係に戻ることは避けなければならない。

 大切なのは、国際規範と協調主義をどう立て直すかだ。モデルは1990年の全欧安保首脳会議ではないか。東欧の民主化やドイツ統一の激動期に、核軍縮や互いの信頼醸成を育む土台となったとされる。ウクライナをめぐっても幅広い国のトップが集まり協議する場が必要だ。

 日本も手を尽くしたい。岸田文雄外相はきのう「事態が落ち着くことを期待したい」と述べたがやや物足りない。北方領土問題を理由にロシアとの関係を悪化させたくないのかもしれないが、核軍縮を進める視点からみても政府はロシアにしっかり物申すべきだろう。

(2015年2月14日朝刊掲載)

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