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社説・コラム

『ひと・とき』 作家・沢地久枝さん 

表現の自由 萎縮懸念

 「言論と心の内面は、どこまでも自由でなければ」。1月下旬に東京都練馬区のギャラリーであった「表現の不自由展」で、風流夢譚(ふうりゅうむたん)事件の教訓を語った。

 雑誌「中央公論」の1960年12月号に載った深沢七郎の小説「風流夢譚」。天皇をめぐる記述を「不敬」とする右翼が中央公論社の社長宅を襲撃し、お手伝いの女性が死亡した。同社の編集者だった記憶から「事件後、別の雑誌が天皇制特集を企画した際、営業部門が『これは大変だ。やめよう』と主張した」と振り返る。

 16歳まで過ごした満州(現中国東北部)では軍国少女。引き揚げ先の防府市では食料不足にさいなまれた。「玉音放送の内容も覚えていない。全く暗愚な少女だった」。同社退社後は、小説家五味川純平の資料助手として日本の近現代史と向き合った。

 五味川の代表作「人間の條件」や「戦争と人間」では、軍部や企業の有形無形の暴力が青年のヒューマニズムを踏みにじる。「社会が萎縮し、気付いたら言いたいことも言えなくなったのが戦時中。当時と同じあしき風が広がりつつある今、希望を捨てず、絶望せず、声を上げ続けよう」と呼び掛けた。(石川昌義)

(2015年2月14日朝刊掲載)

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