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社説・コラム

社説 与党の安保法制協議 「拡大」に歯止めが要る

 自衛隊の活動範囲をどこまで広げようというのだろう。集団的自衛権の行使容認を踏まえた安全保障法制の整備へ、自民、公明の両党が約7カ月ぶりに協議を再開した。

 出動手続きの迅速化へ、電話による閣議決定方式を導入することで早速、合意したという。一方で、武力攻撃には至らない「グレーゾーン事態」をめぐる協議は結論を持ち越した。

 自衛隊がオーストラリア軍の艦船なども防護するとの提案が示されたためである。昨年7月の閣議決定では米軍の艦船などに限定していたが、早くも逸脱する内容であり、公明党が異を唱えた。

 具体論や法律の中身を先送りにして合意を急いだ閣議決定は、国民の間にも根強い批判がある。安保法制整備にあたっては時間をかけて丁々発止の議論が尽くされなければならない。

 「平和の党」を掲げる公明党としては、しっかりと歯止めをかけることこそ責務だろう。密室協議で、なしくずし的に押し切られるのでは困る。

 3月中に法制全体の骨格を固める方針といい、まずはグレーゾーン事態の協議から入った。日本周辺で弾道ミサイル発射の兆候があった際に対処する外国艦船の防護などだ。対立点は少ないはずが早速、意見の違いが浮き彫りになった。

 米軍以外の他国軍艦船も防護できるとした点が焦点となった。防衛協力を進めており「準同盟国」と位置づけるオーストラリア軍を念頭に広げたものだ。協議の初めから飛び出した、拡大解釈といえる。

 これでは際限なく広げられてしまいかねない。中国など周辺国を刺激する恐れもある。公明党が慎重姿勢を見せるのも当然だろう。

 両党は続いて、自衛隊による多国籍軍への後方支援をめぐる協議に入るという。政府はこの後方支援の対象についても、米軍以外への拡大を狙っているようだ。具体的にはオーストラリアや英国、フランスを想定しているという。

 自衛隊の海外派遣はこれまでは時限の特別措置法をつくり、対応してきた。だがこれでは時間がかかるとして、自民党は恒久法を制定したいようだ。

 これにより自衛隊を随時、派遣できるようになる。そのことが国際社会に対し、どういうメッセージとなるのだろうか。

 施政方針演説で安倍晋三首相は「あらゆる事態に切れ目のない対応を可能とする安全保障法制」を整えるとした。国民の命と幸せな暮らしを断固として守り抜くためと強調している。

 とはいえ、邦人を人質に取り殺害したとみられる過激派「イスラム国」は、日本を欧米主導の「十字軍の一員」と位置付け、敵視を強めたという。自衛隊の海外活動拡大へとかじを切れば、どう受けとめられるか。邦人が危険にさらされる事態を生じかねない。

 イスラム国による事件発生以降、政権は法整備へ前のめりになってきたように映る。邦人を標的とするテロを許さないのは当然だが、事件を口実に議論を急いではならない。

 民主党や維新の党などの野党には、安全保障について法案や意見をとりまとめる動きが出てきた。国の形を大きく変える法制である。拙速は許されない。

(2015年2月15日朝刊掲載)

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