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社説・コラム

廃絶へ問われる各国 赤十字国際委員会マウラー総裁 「核兵器の非人道性」を聞く 

広島訪問 被爆体験の重み実感

 核兵器について「使われればいかに非人道的か」という切り口から捉え直す機運が、国際社会で盛り上がっている。そのきっかけをつくったのは、赤十字国際委員会(ICRC、本部スイス)だとされる。このほど広島市を訪れたペーター・マウラー総裁(58)が中国新聞のインタビューに応じ、ICRCと「核兵器の非人道性」との関わりについて語った。(金崎由美)

 ―ここ数年間、特に「核兵器の非人道性」をめぐる議論が活発になっています。どうみていますか。
 2013年にノルウェー、昨年はメキシコとオーストリアのウィーンで、政府主催の「核兵器の非人道性に関する国際会議」が開かれるなど、新たな形で核兵器問題への注目が高まった。歓迎している。

 会議を通じ、核兵器が使われた場合に私たちの健康、環境、農業の被害がどれほど深刻になるのか、科学的にアプローチした点が重要だ。核兵器の人道的な影響を共通理解する土台になったと思う。

 ―ICRCが10年4月に「核兵器の非人道性」に言及した前総裁の声明を発信して以来、核兵器廃絶に熱心な国やNGOが勢いづいたと言われますね。
 核兵器の問題を、われわれが議論のまな板に載せることに貢献できたのなら、うれしく思う。3回の国際会議にも代表団を送り、機運の盛り上げに積極的に関わってきたつもりだ。

 一方で忘れてはならないのは、核兵器を実際になくす交渉の主体は政府だということ。ちょうど4月下旬から、5年に1回の核拡散防止条約(NPT)再検討会議が始まる。3回の国際会議で得た共通理解を踏まえ、政治的な機運と行動にどう結び付けていくか。各国が問われる番だ。

 ―ICRCとしての核兵器に関する問題意識は、特にどんな点にありますか。
 ICRCが活動の法的根拠とし、擁護や推進を担うのが国際人道法だ。戦争の当事国は戦闘員と市民を明確に区別し、軍事目標以外は攻撃してはならない。民間人や施設に被害を及ぼさないよう常に注意を払うべきであり、敵国に極端にひどい被害を与えることも許されない。

 核兵器は破壊力が甚大で、健康面でも世代をまたぎ影響が心配される。被爆直後の広島がまさにそうだったが、病院は破壊され、医師や看護師も犠牲になる。核兵器が使われればICRCの救援活動は阻まれる。国際人道法の原則からも核兵器の使用は非常に問題となる。

 ―今回、広島市を訪れ何を感じましたか。
 被爆者の山本定男さんから証言を聞き、原爆資料館を見学した。実体験だけが持つ重みに思いを寄せた。平和への思いの強さに心を動かされ、エネルギーをもらった思いだ。

 一人一人の被爆者の体験証言や、3回の国際会議で議題となった科学的知見を通じた被害の本質への理解が合わさって今、核兵器廃絶の必要性は世界の注目を集めている。平和で核兵器のない世界という被爆者の願いを前に進める上で、われわれは重要な時期にあるという認識を新たにした。

 1956年、スイス生まれ。87年、スイス外務省に入省。国連大使、外相を経て12年7月から現職。

(2015年2月15日朝刊掲載)

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