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社説・コラム

天風録 「被災地の灯台」

 青い空に白い塔が映える。映画「喜びも悲しみも幾歳月」の舞台の一つになった福島県いわき市の塩屋埼灯台に立ち寄った。震災の傷痕も癒えて昨年から再び公開されている。もともと一大名所だけに復興のランドマークに▲土産店に並ぶハンカチに目を留めた。大空を背景に自慢の灯台を模した絵をあしらい、頂上で多くの人たちが笑顔で手を振る。子どもらしい図柄で売り物となるの?といぶかっていると▲聞けば悲しい物語があった。津波の犠牲になった小学4年の鈴木姫花さんが生前に描いたそうだ。デザイナーという将来の希望をかなえようと商品に―。命を落とした多くの子どもの夢も託されているのかもしれない▲間もなく3・11から4年。暮らしに光を見いだす被災者もいよう。ただ暗闇に包まれたままの場所を忘れたくない。同じ福島の原発事故は汚染水一つとっても難航する。ましてや古里を追われた人たちに光は届くのか▲塩屋埼灯台は海の難所を116年にわたって照らしてきた。福島をあまねく復興させるという先の見えない長い長い航海。喜びも悲しみも分け隔てなく光を注ぐ灯台守とは一体誰なのだろう。そんなことをつい考えてしまう。

(2015年2月16日朝刊掲載)

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