×

社説・コラム

社説 「核兵器禁止」文書 NPT会議につなごう

 米ニューヨークで5年に1回開かれる核拡散防止条約(NPT)再検討会議まで、2カ月余りになった。被爆70年の節目と重なる。広島・長崎の悲願である核兵器廃絶への道筋が今度こそ確かなものになるよう、国際社会の力が問われる。

 5年前の再検討会議で言及された「核兵器禁止条約」をめぐり、踏み込んだ合意に至るかどうかが大きな焦点となろう。その機運を盛り上げるためにも非核国のオーストリアが国連の全加盟国に核兵器の禁止をうたった文書を配布し、賛同を求めた意味は小さくない。

 「いかなる状況でも核兵器が二度と使用されないことが人類の利益」と明記し、禁止・廃絶のための法整備を呼び掛けるものだ。核兵器の「害悪」を強調した点もうなずける。今回の再検討会議に提出することには、禁止条約への「たたき台」とする狙いもありそうだ。

 オーストリア政府は核兵器の非人道性を告発し、廃絶につなげていく国際的な潮流の中心を担う。昨年12月に首都ウィーンで開いた非人道性に関する国際会議では議長国として、核保有国である米国と英国をやっと同じテーブルに着かせた。

 ただ、その場で米英両国が禁止条約への反対を鮮明にし、道のりの遠さを浮き彫りにしたのも事実だ。ことしになって、新たな文書への賛同を各国から募るのは今のままなら再検討会議でも前に進まない、という危機感の表れなのかもしれない。

 確かに核をめぐる世界の状況は厳しい。米科学誌が地球最後の日までの残り時間を見立てる終末時計の針も「あと3分」に進んだ。米ソが核軍拡競争に走った冷戦期以来の数字だ。

 核兵器の9割以上を持つ二つの核大国は、いま国際世論に明らかに背を向けていよう。米オバマ政権は「核兵器なき世界」どころか、核戦力の近代化に巨費を投じている。ロシアのプーチン政権もウクライナ問題の対立を受けて米国との核軍縮交渉を滞らせるのに加え、50基以上の大陸間弾道ミサイル(ICBM)などの配備を打ち出した。

 アジアに目を転じれば質・量ともに核戦力増強を図ろうとする中国や核実験強行をちらつかせる北朝鮮のほか、インドやパキスタンでも核に頼った戦力の強化が伝えられる。さらにいえば中東の過激派「イスラム国」に核が渡ったらどうなるかを懸念する声まで出始めた。

 だからこそ再検討会議の役割はかつてなく重い。核兵器の非合法化を最優先で論じ、事態を打開する必要があるはずだ。

 何より先頭に立つべきなのは日本政府である。核兵器の全面廃絶に向けた国連総会決議を主導しながら「核の傘」にこだわり、米国の顔色をうかがう矛盾したスタンスを取ってきた。禁止条約にも後ろ向きであるばかりか、同盟強化の名のもとに米核戦略との一体化を強めつつある、という指摘もある。このままでいいわけはない。

 先週の施政方針演説で安倍晋三首相は被爆70年に触れ「唯一の戦争被爆国として世界の核軍縮、不拡散をリードする」と述べた。ここに至って「廃絶」をなぜ口にしないのか。オーストリアの呼び掛けにすぐ賛同を表明するとともに、核保有国も含めて輪を広げることで被爆国の責務を果たしてもらいたい。

(2015年2月16日朝刊掲載)

年別アーカイブ