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社説・コラム

社説 日本の新テロ対策 過激主義 生まぬために

 過激派組織「イスラム国」による邦人殺害事件を受け、政府がきのう、新たなテロ対策を発表した。

 テロの脅威は世界中に飛び火している。約1カ月前のフランス連続テロに触発されたかのように、デンマークでも先日、イスラム教の預言者ムハンマドを風刺した画家たちが標的となった。テロの火種はインターネットなどを通じて全世界にばらまかれ、日本の国内で暴発する可能性も否定はできまい。

 広がる過激主義に日本はどう立ち向かうべきなのか。イスラム世界と連携しながら不断に対策を見つめ直し、手遅れにならぬよう、その芽を摘みたい。

 対策の柱は、中東・アフリカでのテロ対策支援に1550万ドル(約18億3千万円)を供与し、各国の国境管理や捜査・訴追能力を強化することである。19日に米ワシントンで開かれるテロ対策の国際会議で表明する。日本政府としては、国際社会の一員として、テロ対策への非軍事的な貢献をアピールする狙いがあるのだろう。

 イスラム過激派は中東だけでなく、アフリカやアジアでも勢力を広げている。さらに支配地域で戦闘員を育成し、欧米や周辺諸国にテロを「輸出」しているともされる。各国が情報を共有し、国境管理をより厳格にすることでテロを未然に防ぐ、との狙いは分からなくもない。

 ただそうした国境での水際作戦や当局の監視をかいくぐるのがテロ組織である。どこまで実効性が出るのか、本質的な解決策となるのかは見通せまい。

 だからこそ、対策のもう一つの柱である「過激主義を生みださない社会の構築」が鍵を握るに違いない。

 国は、若者の失業対策や教育支援、宗教指導者の招請など人的交流をメニューとして挙げている。しかしどの国にどのような対策を講じるのか、具体像はまだ判然としない。

 過激派が広がる背景には、中東やアフリカの国々に少なくない政治腐敗や貧富の差があるとされる。政情が悪化し、貧困や失業に直面した若者たちが、将来への絶望や孤立感を深め、過激派組織に勧誘されている。

 テロは決して許すことはできない。しかし、その対策が武力による解決に偏れば、憎しみの連鎖は止まらず、新たなテロも防げない。教育の普及などさまざまなアプローチで、過激主義を生み出す背景に踏み込み、改革していく視点を忘れてはなるまい。

 日本はアジア各国などで教育の普及や自立支援を進めてきた。荒廃した国々を立て直し、社会を安定させるにはかなりの人手と時間がいる。中東やアフリカでは長い目で再建をサポートしたい。

 併せて今後、求められるのは国外だけでなく、国内での取り組み強化ではなかろうか。イスラム国による蛮行が世界に広まるにつれ、国内の一般のイスラム教徒への偏見が強まる懸念が出ている。

 あらためて多文化共生の視点を大切にしたい。国際化が進む中、多様な宗教や文化を持つ人たちと平和的に共存する社会づくりは、今後の日本にとって欠かせない。

 社会を分断せずお互いを敵視しない環境づくりはテロの大きな防護壁となろう。

(2015年2月18日朝刊掲載)

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