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国家権力の実体描く 広島市西区の横川シネマ2作品上映 地域・家族 分断の悲劇

 住民の暮らしの基盤を根こそぎ奪う国家権力の実体を描く映画が、広島市西区の横川シネマで上映されている。成田空港の建設反対闘争の過去と現在を記録した「三里塚に生きる」(21日まで)。続いて28日からは戦時中の満蒙(まんもう)開拓団をテーマにした劇映画「望郷の鐘」。住み慣れた土地を追われ、地域社会や家族が分断される悲劇を伝える。

 「三里塚に生きる」はドキュメンタリー映像作家小川紳介さん(1992年に55歳で死去)が60、70年代に手掛けた三里塚シリーズの続編的作品。空港建設阻止を叫ぶ地元農家でつくる「青年行動隊」に結集した若者の今を切り取った。機動隊の力を背景に空港建設へ突き進む国に抵抗した若者も、今や70歳前後。空港拡張で土地を手放した人も多い。その土地の多くは、戦後の入植者が開拓した。

 父と開墾した農地を2001年に売った男性は、売却決断の葛藤を淡々と語る。反対運動から早々に身を引いた父を持つ男性は、闘争のさなかに自殺した同世代の仲間を思い涙ぐむ。

 「本当に国家権力というものは恐ろしいな、生きようとする百姓の生をとりあげ、たたきつぶすのだからな」。機動隊員3人が死亡し、双方に多くの負傷者を出した71年の土地強制収用の直後に自殺した若者の遺書が胸を打つ。

 「望郷の鐘」は、終戦間近の45年5月に開拓団として満州(現中国東北部)に渡った長野県の村人の物語。8月9日にソ連が侵攻。シベリアに抑留され、帰国後は中国残留孤児の帰国運動に尽力した住職山本慈昭さん(90年に88歳で死去)の生涯を描く。

 敗色濃厚な中、国はなぜ、村人に渡航を勧めたのか。戦火の中を逃げ惑い、辛酸をなめた開拓団の人々に、国はどう接したのか。土地に根付いたささやかな暮らしを軽視し、国策に従わせる力は、米軍基地や原発のある地域に今も存在するのではないか、と考えさせられる。「望郷の鐘」は3月20日まで。(石川昌義)

(2015年2月18日朝刊掲載)

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