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社説・コラム

社説 「核のごみ」最終処分 自らの問題と捉えたい

 日本の原子力政策が抱える最大の「弱点」といえよう。原発から出る「核のごみ」をどのように最終処分するかという問題である。経済産業省が、その基本方針の改定案を公表した。

 従来通り、高レベル放射性廃棄物は地中深く埋める「地層処分」の原則は変えていない。大きな変更点は、いったん廃棄物を地層処分しても将来、政策の変更があれば取り出せる仕組みを導入することだ。処分場を受け入れる自治体の安全上のリスクや、心理的な負担を減らす思惑があるのだろう。

 政府は来月末までに改定案を閣議決定するという。だが、これで最終処分の問題が前に進むのかは見通せない。

 処分場をめぐっては、電力会社などでつくる原子力発電環境整備機構が13年前から受け入れ先の自治体を募集したが、全くめどが立っていない。過疎や財政難に苦しむ一部の自治体の首長が前向きな姿勢を示したことはあった。しかし、住民の強い反対で頓挫している。

 そのため政府は一昨年、処分場を選定する方法を転換することを決めた。自治体が手を挙げるのを待つのではなく、国が科学的な知見に基づいて断層や地下水の影響で放射性物質が漏れる懸念が小さい地域を選び、自治体に提示することにした。

 こうした内容は今回の基本方針の改定案にも盛り込まれている。政府は春以降、複数の「科学的有望地」を示すための作業を急ぐという。

 とはいえ、自治体や住民の合意を得て処分場の場所を決定するまでには相当の時間がかかることを覚悟する必要があろう。いくら政府が候補地を示しても、すぐに受け入れる自治体が現れるとは思えない。

 福島第1原発の事故後、地震国の日本で高レベル放射性廃棄物を地層処分しても大丈夫なのか、懸念も強まっている。今後、どう最終処分の道筋を付けていけばよいのだろう。

 科学者たちの代表機関、日本学術会議が取りまとめ中の政策提言案の内容を重く受け止めるべきだ。地層処分を急ぐのではなく、放射性廃棄物を特殊容器に入れる「乾式貯蔵」で原則50年間、暫定的に地上で保管することを求めている。今から30年後をめどに処分場の選定を目指すとしている。

 その間に地層処分の安全性について、もう一度、技術的に確認するとともに、最終処分の在り方について国民的な議論を深める狙いだ。「急がば回れ」という考え方は一理あろう。

 海外に目を向けても、欧米の多くの国が処分場をどこに造るのか定められていない。既に場所を決めているのは、北欧のフィンランドとスウェーデンに限られる。それぞれの政府と事業者が数十年をかけ自治体や住民と対話を続けた成果だろう。

 これから日本国内で原発が再稼働しないとしても、既に核のごみは存在している。使用済み核燃料も全国の原発の敷地内などに合わせて1万7千トンが積み上がっている。

 高レベル放射性廃棄物が安全な水準になるには数万年はかかるとされる。まずは国民一人一人が自らの問題と捉えることが不可欠だ。もし原発の電気を使うのではあれば、核のごみ問題を将来世代に押し付けることがあってはなるまい。

(2015年2月19日朝刊掲載)

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