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社説・コラム

天風録 「戦艦陸奥と高校生」

 今どきの高校生たちが危機感を募らせている。教科書やネット情報だけでは分からない地域史があることを実体験したからだろう。戦争を知る世代から証言を聞き、残していかなければ忘れられてしまうと▲1943年、白昼に謎の爆発に見舞われ、岩国市柱島沖で沈んだ旧海軍の戦艦陸奥。徳山高地歴部の高校生が1年にわたって調べ、リポートにまとめた。現場の海を北に望む周防大島の陸奥記念館で読むことができる▲証言を聞くうち、周りの島々を襲った悲劇も知った。大島では漂着した機雷が、運び込まれたお寺で爆発し、子どもまで亡くなっていた。飛び散った黒い破片は今も柱に▲かん口令が敷かれ、水兵たちの亡きがらは無人島で焼かれた。遺族への郵便物は検閲され、目撃した島民が監視された。戦時下の食糧難も高校生には驚きだった。「私たちに理解できるのか」と戸惑いも明かしている▲戦後、艦首などが引き揚げられたが、船体の一部は今も暗い海に沈む。犠牲者1121人の墓標でもあろう。艦底が上を向いた船影の3次元画像が、記念館で公開されている。若い人にこの地を訪れてほしい。君たちと同じ年頃の遺影にも思いが募るに違いない。

(2015年2月20日朝刊掲載)

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