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社説・コラム

社説 「戦後70年」有識者懇 過去を直視した議論を

 議論の行方が国内外から大きな注目を集めることになろう。戦後70年談話に関する有識者懇談会のメンバーが決まった。来週に初会合を開く。

 安倍晋三首相の私的諮問機関という位置づけである。先の大戦への反省に加え戦後の平和国家としての歩み、今後の世界への貢献を書き込む―。政府が掲げる基本方針を踏まえ、談話の中身を方向付ける重い役目を担うことになる。

 首相の思いにこだわらずに予断なく議論を重ね、遠慮なく直言していくべきであろう。

 16人のメンバーの人選については評価が分かれよう。首相に近い人物が入る一方、座長に就く予定の西室泰三日本郵政社長をはじめ、首相の政策ブレーンでない有識者たちも起用した。専門分野や世代などでバランスを取ったようにも見える。

 人選を前に、自民党の伊吹文明前衆院議長は「お友達ばかり集めただけではいけない」と注文を付けていた。ここは安倍カラーを抑えるよう配慮せざるを得なかったのかもしれない。

 菅義偉官房長官は記者会見で「多様な視点から議論をいただく」と述べた。ただ過去の戦争や植民地支配についてどこまで突き詰めて論じられるかは必ずしも見通せまい。先の大戦を直接の研究テーマとする一線の研究者をもっと参加させる発想はなかったのだろうか。

 この談話次第では、冷却化する中国や韓国との関係をさらに悪化させる懸念が拭えない。後世にわたる対日感情を左右しかねないことを十分に認識してから議論を始めるべきだ。焦点はやはり1995年の村山談話で明記した「植民地支配」や「侵略」の扱いであろう。

 首相は「村山談話を全体として継承する」と国会などで強調するものの、これらの文言をそのまま用いるかどうかはあいまいなままにしている。これに対して公明党の山口那津男代表は過去の談話と「意味が変わらないものにすべきだ」などと、繰り返しけん制している。

 そうした状況だけに懇談会は過去とどう向き合うかはもちろん、平和国家としてのスタンスを論じ合う機会にすべきだ。進め方も考え直したい。官邸が用意したたたき台に沿って自分たちだけで机の上で話し合う方法では限界があるからだ。

 メンバーには何より客観的な事実を追い求めるべきジャーナリストが2人いる。いっそ中国や韓国を含めた歴史家、あるいは戦争被害者からヒアリングしてはどうだろう。限られた期間とはいえ、海外での調査も選択肢の一つではないか。少なくとも過去の現実を直視する姿勢を大前提にしてもらいたい。

 思い出すのは集団的自衛権の行使容認を検討した「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)である。同じく首相の私的諮問機関であり、結果的には昨年7月に行使容認の憲法解釈の変更へと道を開く露払い役となった。

 しかし結論に至る経過は不透明なままで、密室で進めたという批判を浴びた。ここで座長代理を務めた国際大学長の北岡伸一氏は、今回も同じポジションに就く見通しである。

 今度こそ「結論ありき」は許されまい。談話自体に加え、そのプロセスが問われていることを忘れてはならない。

(2015年2月21日朝刊掲載)

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