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「あの日」継承に危機感 福山市原爆被害者の会 来月末解散 被爆県 高齢化の波

 被爆70年のことし、福山市原爆被害者の会が3月末の解散を決めた。「あの日」を体験し、核兵器廃絶を訴え続けてきた人たちの高齢化が進み、各地で被爆者団体の活動をどう維持するかが課題となっている。被爆県広島でも危機感が強まる。被爆2世へのバトンタッチなど模索が続く。(加納亜弥、小林可奈)

 22日午後、福山市の市民参画センター。約3時間に及ぶ非公開の会合が終わった。退室した役員は次々と口にした。「解散になってしまった」「ショックです」。佐藤敏彦事務局長(73)は「会員に申し訳ない」とうなだれた。

 出席者によると、この日は理事たち24人が出席。本年度内の解散の是非を議題に、議長役を除く23人で採決した。解散に賛成は12人、反対は11人。賛否が拮抗(きっこう)しただけに「会としても解散は苦渋の判断だった」(佐藤事務局長)という。

 被爆2世を含めて約500人の同会では昨年、運営の中心となってきた役員が体調不良で辞意を表明。他の役員で組織を維持するのは難しく、被爆2世への引き継ぎも検討した。しかし、実現しなかったという。毎年8月6日に市内で開いてきた原爆死没者慰霊式などをどうするかは今後、市と相談する方針でいる。

 日本被団協の都道府県組織では、会員の高齢化などにより2006年に奈良、08年に滋賀の組織が解散。市町村や地域でも活動に幕を下ろすケースが相次ぐ。広島県内では東広島市で13年、河内町原爆被爆者の会が解散。安芸高田市でも向原町の被爆者の会が活動を終えた。

 一方で、被爆70年の節目に力を振り絞ろうとしている団体もある。三原市内の被爆者約450人でつくる三原市原爆被害者之会(苞(ほう)山正男会長)。夏に向け、会員の被爆体験を盛り込んだ70年史の編さんなどを検討している。音丸篤夫事務局長(73)は「70年が被爆者自身が動ける最後の節目と考えている。いずれは被爆2世に会の担い手をお願いしたい」と明かす。

 三次市原爆被害者協議会(時丸卓爾会長)では約6年前、事務局長と会計のポストを被爆2世に引き継いだ。被爆者自身では難しくなった会報の作成などを下支えしている。「原爆が招いた病気に苦しむ親の姿を見てきた」と田口正行事務局長(57)。「2世ならではの視点で今後の活動の在り方を考えたい」と話す。

福山市原爆被害者の会
 1956年に発足。被爆者が親睦を深めたり、被爆体験の証言活動をしたりしてきた。役員の高齢化などで組織の運営が維持できず、ことし2月22日の臨時役員総会で3月末での解散を決めた。会員数は現在、被爆者368人、被爆2世130人、遺族14人の計512人。

(2015年2月24日朝刊掲載)

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