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福島原発事故 取るべき対応は 原医研の鎌田七男元所長に聞く

■記者 下久保聖司

住民の行動記録 急務  福島第1原発の周辺住民や行政は今、何をするべきか。ヒロシマの蓄積を生かしたアドバイスを27日、元広島大原爆放射線医科学研究所(原医研)所長の鎌田七男医師に聞いた。

 ―放射線影響研究所(放影研)や広島大など放射線の研究機関が、住民の健康を追跡調査する方針を固めました。住民が今しておくことは。
 東日本大震災以降、どのような行動をしたかを記録しておくこと。そして採尿だ。

 時間が経過するほど、人の記憶は薄れる。原発から20キロ圏内などにとどまっている人も、既に避難した人にもメモしておくことは大事だ。今ならまだ間に合うだろう。この記録が被曝(ひばく)線量の推定に役立つ。

 ポイントは屋外にいた時間。屋内より線量が2倍高いとされる。入浴の有無も書き留めれば、体に付着した放射性物質を流したかどうかも分かる。雨を浴びたかどうかも重要。広島の原爆投下後の「黒い雨」に比べ、フクシマの雨は無色で記憶に残りにくいから。

 ―なぜ尿を採るのですか。
 広島で家族などを捜すために爆心地付近に入った「入市被爆」と同じように、フクシマでも内部被曝が問題になる。尿を採っておくことでやはりどの程度被曝したかが推定できる。

 原発から放出された放射性物質セシウム137やヨウ素131の生物的半減期(吸入した量の半分が体外に排出されるまで)は約100日だ。これは原発周辺にいる間にしておくことが重要。避難した人は既に体から排出された可能性があるからだ。調査は急を要している。

 ―行政などが取り組んでおくべきことはありますか。
 道路や校庭で舞う土ぼこりが、どれだけ放射能を含んでいるかを測定すべきだ。今、国は地上50センチと100センチの場所での大気中の放射線量を測っている。ただ子どもたちがグラウンドで遊んで呼吸するときに入ってくる放射性物質も問題だ。だからそれを測定しておく必要がある。雨で流される前に、急いでやらないといけない。

 また5~10人だけにでもホールボディーカウンター(全身測定装置)による検査をしておけば、体内に存在する特定の放射線核種を突き止めることができる。

 これらの記録を残しておけば、被曝線量を客観的に証明できる。今後の健康管理に生かせるし、疫学調査にも活用できる。

かまだ・ななお
 広島大医学部卒。同大教授などを経て、97~99年に同大原爆放射能医学研究所(現原爆放射線医科学研究所)所長。放射線被曝者医療国際協力推進協議会(HICARE)会長なども歴任した。2001年から広島原爆被爆者援護事業団理事長。専門は放射線生物学。鹿児島県出身。74歳。

(2011年4月28日朝刊掲載)

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