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社説・コラム

『記者縦横』 「拉致」停滞に家族落胆

■井原支局・小川満久

 小田川の清流が岡山県名勝の天神峡を抜け、山あいをゆっくりと流れる。井原市芳井町には、町ゆかりの室町期の画僧雪舟が描く水墨画のような風景が広がる。この町で四半世紀前、1人の若い女性が突然、姿を消した。

 県内ではただ1人、北朝鮮による「拉致の疑いが濃厚」とされる特定失踪者、清水桂子さん=当時(22)。町には現在、父太一さん(74)、母弘美さん(67)が暮らす。

 桂子さんは1990年12月、町内の勤務先を出てから行方が分からなくなった。車は井原市内の書店駐車場に放置されていたが、車内は荒らされていなかった。翌年3月に結婚を控えており、福山市内の式場を予約していたという。

 24年後の昨夏、北朝鮮は拉致被害者や特定失踪者の安否を再調査する特別調査委員会を設置した。夫婦は事態打開に大きな期待を寄せた。しかし、昨夏にも予定されていた初回の調査報告のめどは依然立たず、半年余りが過ぎた。

 東京の民間団体「特定失踪者問題調査会」は、「北朝鮮の報告に、日本が求める拉致被害者の新しい情報がなかったので、政府は受け入れなかった」と推測。期待が大きかっただけに、家族たちの落胆も大きいと代弁する。

 「なかなか進展が見られず、もどかしい。早く娘に会いたい」と弘美さんは語る。太一さんは数年前から病気で体調を崩しているという。やり場のない憤りや不安を抱え、夫婦は娘との再会をきょうも待ち続けている。

(2015年2月27日朝刊掲載)

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