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社説・コラム

中国新聞 政経講演会 2015年の国際情勢と日本の外交 元外務省国際情報局長・孫崎享氏 憎み合わず協調を

 中国新聞社と中国経済クラブ(山本治朗理事長)は27日、広島市中区の中国新聞ビルで中国新聞政経講演会を開いた。元外務省国際情報局長の孫崎享氏が「2015年の国際情勢と日本の外交~安全保障政策の課題」と題して講演。テロ対策や集団的自衛権をめぐる安倍政権の対応に疑問を呈し、他国と協調する大切さを説いた。要旨は次の通り。(松本恭治)

 フリージャーナリストの後藤健二さんが殺害されたとみられる映像が公開され、過激派組織「イスラム国」に大きな関心が集まっている。日本政府は「テロと断固戦う」との方針を打ち出しているが、果たして成功するのか疑問だ。

 イスラム国の一番の特徴は、2万人の外国人兵士がいることだ。欧州、北アフリカ、中近東…。イスラム国を壊滅しても、外国人兵士はそれぞれの出身地や関係先に戻る。仲間が殺されたとなると、より過激な行動を取るだろう。テロを撲滅するのは非常に困難だ。

 集団的自衛権の問題はどうか。憲法解釈の変更による行使容認について、3人もの元内閣法制局長官が異を唱えている。警察が物理的な力で国を守る組織だとすれば、理論面で国を守る中心が内閣法制局だ。日本は今、大きな曲がり角にきている。

 安倍晋三首相は行使が必要な具体例として、邦人輸送中の米輸送艦の防護を挙げた。だが、米国は国務省のサイトで、避難時に米軍の輸送手段を使うのは「ハリウッドの脚本だ」と指摘している。米国自身も想定しないことを、あたかも集団的自衛権の骨子のようにして、国民の支持を得ようとする。これは詭弁(きべん)と言われてもしょうがない。

 日本は戦後、平和と繁栄を世界のどの国よりも享受してきた。なぜそれを捨て「軍事的に貢献する国」になる必要があるのか。中国の脅威を指摘する意見もあるが、日米安全保障条約の第5条には、日本が攻撃された時の対応がきちんと書いてある。沖縄県・尖閣諸島が攻撃されたとき、米国は自国の平和、安全を脅かすと判断し、米国憲法の規定に従って行動することになる。

 1972年の日中国交正常化の際、中国との交渉の責任者だった元外務省条約課長は、尖閣問題を棚上げする「暗黙の了解」があったと言っている。日中はその認識をしばらく引き継いだが、いつの間にか消えてしまった。

 フランスとドイツは第1次、第2次世界大戦で激しく戦った。両国にも国境問題は存在するが、今は戦争をしない。なぜか。先の大戦で大きな損失を生んだため、争いの原因となる石炭と鉄鋼を共同管理する欧州石炭鉄鋼共同体をつくったから。今日の欧州連合(EU)につながった。

 フランスとドイツは、国境問題や歴史的な問題が存在しても、憎み合うよりも互いに協力する関係を築いた。そうした例を踏まえ、私たちはもう一度、中国や韓国との関係を考える時期にきているのではないかと思う。

まごさき・うける
 66年に東京大法学部を中退し、外務省入り。駐ウズベキスタン大使、国際情報局長、駐イラン大使を歴任し、02~09年に防衛大学校教授。石川県小松市出身。71歳。

(2015年2月28日朝刊掲載)

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