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文明とは何か問い続け 現代美術家・杉本博司さん広島で講演

 米ニューヨークや東京を拠点に活躍する現代美術家杉本博司さん(66)。自身の作品も並ぶ特別展が開催中の広島市現代美術館(南区)で講演し、写真家や収集家、建築家など多彩な顔を持つ自身の創作活動について語った。

 杉本さんは、昨年、フランス・パリの現代アートセンター「パレ・ド・トーキョー」で個展「今日 世界は死んだ もしかすると昨日かもしれない」を開いた。人類滅亡の最後に立ち会った人がその様子を、震える字で書き残したとの設定。虚構とも現実とも思える皮肉とユーモアたっぷり「人類滅亡」の33通りのシナリオを描き、自身のコレクションと作品とで空間構成した。講演では、その一部を示しながら紹介した。

 例えば「安楽死協会会長」。資本主義社会で巨大な富を得た一部の勝ち組と負け組の格差が広がり、敗者は死を選ぶしかなくなった世界を語る。「バービーちゃん」では、整形によってみんなが美人になった世の中の不幸を表現する。

 「理想主義者」には、米国の原爆開発で原子炉ののぞき窓に使われたガラスの塊などを茶道具のように配した。民主主義対ファシズムという単純化で、広島、長崎への原爆投下が看過されている世界に触れ、理想という名の下に多くの人を殺す世の中の終末を表した。「太陽系や生命の歴史からすると人類史なんてまだほんの一瞬。人類もいつ消えてもおかしくない。それを見える形で示したかった」。ほかにもイタリアでの制作や、神奈川県小田原市に建設中の文化施設の計画について話した。

 作品を通じ、近代化や文明とは何かを問いながら、収集も続ける杉本さん。雷神像や仏像のような古美術を集めるのは「信仰の形を木の中から彫り出したような、精神とアートが混然一体になったものに引かれるから」という。「現代人が忘れた宗教的神秘的な感覚を、アーティストである自分が、古代人並みの受信装置として、作品に転化しようと課している」などと述べた。

 特別展「現代美術のハードコアはじつは世界の宝である展」は、台湾・ヤゲオ財団のコレクションから、杉本さんのほかアンディ・ウォーホルやフランシス・ベーコン、ゲルハルト・リヒターらの代表作計73点を紹介。アートの多様な「価値」について一考を促す。同館と中国新聞社などの主催で、3月8日まで。(森田裕美)

(2015年2月28日朝刊掲載)

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