×

社説・コラム

社説 辺野古サンゴ礁損傷 「粛々と」進められまい

 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設先である名護市辺野古沖で、沖縄防衛局の海上作業によってサンゴ礁が損傷した問題が、国と県の対立をさらに深めている。重ねて主張したいが、政権の判断で工事を一時中断することはできないのか。

 辺野古沖の埋め立てを承認した仲井真弘多(なかいま・ひろかず)前知事の手続きに法的瑕疵(かし)(欠陥)がなかったかどうか、有識者委員会による検証は先月始まったばかりだ。現段階では、計画が手続きの上で全く問題がなかったとは断言できまい。

 仲井真氏にノーを突きつけた選挙結果を軽んじないのであれば、少なくとも検証結果を待つべきだろう。

 サンゴ礁の損傷は、防衛局が海底ボーリング調査再開に向け大型コンクリート製ブロックを海中に投入したことによって起きた。ブロックは臨時制限水域を示す海面のブイを固定するアンカー(いかり)だという。損傷は市民グループの潜水調査で明らかになり、県も先週、現場を調べて確認している。

 仲井真氏が知事時代の昨年8月、県は防衛局が提出した辺野古沖の岩礁破砕申請を許可した。今回はブロックの投入が許可の範囲を逸脱していないかどうか、調査結果を精査して判断する。翁長雄志知事は岩礁破砕許可取り消しの可能性にも言及し、一歩踏み込んだようだ。

 政権はこれを一顧だにしていない。菅義偉官房長官は県の潜水調査は一方的だと不快感を示した上で、岩礁破砕許可の取り消しは「ありえない」としている。海底ボーリング調査については「環境(保全)に万全を期しながら粛々と進めたい」と繰り返すばかりだ。

 しかしサンゴ礁損傷をよそに、環境に万全を期す、と言われても説得力はあるまい。「粛々と」進めるべきは沖縄県と県民への誠意ある対応だろう。

 そもそも翁長氏は昨年12月の就任以来、安倍晋三首相や菅官房長官との会談を求めながら一度も実現していない。新知事の就任から3カ月近くたち、沖縄の基地負担軽減が国政上の重要課題であることを考えると、異常事態としか言いようがない。

 先月下旬、名護市の米軍キャンプ・シュワブゲート前で、反対派の活動家2人が、日米地位協定に基づく刑事特別法(刑特法)違反の疑いで県警に逮捕され、送検された。これも異常事態の一つの表れといえよう。

 刑特法は1957年に東京都砂川町(当時)の旧米軍立川基地で起きた「砂川事件」の一審で違憲判決の例がある。その後も基地反対運動に適用されており、このような法律を持ち出せば、火に油を注ぐだけだ。

 シュワブゲート前で活動家2人を最初に拘束したのは米軍で、うち1人が日本人警備員に暴行し基地内に侵入した、としている。だが、活動家は真っ向から反論しており、那覇地検が2人の勾留を請求しないで釈放したことからも明らかなように、米軍の行き過ぎだろう。

 県内では「新基地建設を強行することは民主主義に反する」と意見書を可決した市議会もある。基地従業員の労働組合も、警備員をこうした業務に当たらせたことを問題視している。

 いたずらに県民同士の亀裂を深めないためにも、工事を一時手控えるべきではないか。

(2015年3月2日朝刊掲載)

年別アーカイブ