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社説・コラム

天風録 「世界一番貧しい大統領」

 話題の絵本を読んで、心動かされた。「世界で一番貧しい大統領」と呼ばれた人物のスピーチをつづるものだ。先日、指導者の座を去った南米の農業国ウルグアイのホセ・ムヒカさんである▲伝え聞く人となりは清貧という言葉にぴったりだろう。給料の大半を寄付し、おんぼろ車を自分で運転する。いつも質素なシャツ。それでいて軍事政権下で長く監獄にいた「不屈のゲリラ闘士」の顔も併せ持っていた▲かのスピーチは国連の会議で声を振り絞った。「目の前にある危機は地球環境ではなく、私たちの生き方の危機」。豊かさばかり追い求めていいのか、と。世界を振り回すのは欲深さという妖怪、という決めぜりふも▲ピケティさんには及ばないにしても、地球の裏側の日本で絵本が思わぬベストセラーになったのはなぜ。3・11を経て便利さに浸る生き方を見つめ直したのに、いつしか元の道へ-。その危機感の裏返しなのかどうか▲弱者へのまなざしを忘れなかったムヒカさん。79歳で退任した日は「ずっと政界にいて」との声が、母国で巻き起こったという。かように慕われる政治家が、どこかの国にも欲しいところだ。そんな願いもまた欲深いのだろうか。

(2015年3月7日朝刊掲載)

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