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社説・コラム

社説 存立危機事態 中東まで含むつもりか

 政府が昨年7月の閣議決定で定めた「武力行使の新3要件」に該当し、集団的自衛権を行使できる新たな事態は「存立危機事態」とされる。そう明記した武力攻撃事態法と自衛隊法の改正原案が、おととい明らかになった。しかし、閣議決定の記述自体が曖昧であるがため、拡大解釈が生じかねない。

 これが閣議決定に沿っているというなら、国民に分かりやすく説明する機会を安倍晋三首相自ら設けるべきだろう。「切れ目のない対応を可能とする国内法制の整備」の名の下に、結論を急いではならない。

 武力攻撃事態法の改正原案は存立危機事態について「わが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があると認められる事態」と定義した。「わが国と密接な関係にある他国」への武力攻撃が前提にあり、新3要件の第1項目の表現を踏襲している。

 自衛隊法を改正した上で、集団的自衛権の行使を自衛隊の「主たる任務」に位置付ける。その具体例として、日本のシーレーンの機雷掃海を想定しているのだ。

 しかし、安全保障法制を協議している与党内部で最も意見が分かれるところではないか。

 シーレーンの一つが、ペルシャ湾とアラビア海を結ぶホルムズ海峡である。日本が輸入する原油の8割がここを通過するため、万一、機雷封鎖されると、経済的打撃は小さくない。

 だが、それが集団的自衛権を行使するほどの「存立危機事態」かどうかは疑わしい。果たして機雷敷設が武力攻撃を受けると同等の深刻な被害をもたらすのかどうか。公明党内ではそうした疑念がいまだ根強いようだが、うなずけよう。

 また、停戦状態になれば機雷掃海は自衛権ではなく警察権に基づいて可能だ、という見方もあるようだ。この点についても十分突き詰めてもらいたい。

 他国の領海内で武力行使に当たる機雷掃海を行うことを、昨年の閣議決定は容認したことになろう。ホルムズ海峡の幅が狭い海域では、両岸のイランとオマーンの領海が接して公海が存在しない地点があるためだ。

 オマーンの領海に機雷を敷設するような他の国があるとすれば、海峡に緊張が走るだろう。自衛隊があえて介入すると、紛争に巻き込まれる恐れがある。

 一方、政府と自民党は国際紛争時に他国軍の後方支援で自衛隊の海外派遣を随時可能にする「恒久法」の制定も目指している。過去にインド洋やイラクに派遣した際は時限立法だった。自民党は恒久法によって派遣の迅速化を狙っているが、公明党も派遣要件が厳格化されそうだとして容認に傾いている。

 長年にわたって時限立法で対処し、国民の一定の理解も得てきたのだから、それで問題はないはずだ。「存立危機事態」についても同じだが、自衛隊の任務と活動範囲が広がりすぎる感がある。隊員の身の安全にも関わることであり、慎重の上にも慎重であるべきだろう。

 与党は今月中に安全保障法制の骨格を固め、個別法案の協議を4月12日の統一地方選前後に始めるという。日米防衛協力指針(ガイドライン)の改定も控えており、スケジュールありきなら、禍根を残しかねない。

(2015年3月8日朝刊掲載)

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