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肝細胞がん 被爆者 高い発症リスク 放影研が数値化

■記者 金崎由美

 被爆者は、肝細胞がんと因果関係が強いB型、C型肝炎ウイルスに感染していなくても、肝細胞がんの発症リスクが高いことが、放射線影響研究所(広島市南区)の大石和佳主任研究員たちの研究で分かった。疫学調査で同様の報告はあるが、保存血清からウイルスを検出する分子生物学的調査で明らかにしたのは初めて。

 肝細胞がんは、患者の約9割がB型、C型肝炎が進行したとされる。今回の研究は、肝炎ウイルスの感染と別に、被爆時の放射線量による発症リスクを数値化した。研究結果は米国の肝臓病専門誌「ヘパトロジー」に掲載された。

 調査は、1970~2002年の間に、放影研が2年に1回行う「成人健康調査」に参加した人が対象。肝細胞がんの発症者224人と肝細胞がんでない644人について肝炎ウイルスの感染の有無を特定。次いで、飲酒や喫煙、肥満などのリスク要因を考慮した統計処理を加え、被爆による肝細胞がんの発症リスクを割り出した。

 放射線の吸収線量を表す単位であるグレイで比較した。1グレイは爆心地から1.1キロの被爆に相当する。その結果、肝炎ウイルスに感染していない被爆者が肝細胞がんを発症するリスクは、1グレイで2.7倍。肝炎ウイルスに感染している被爆者の発症リスクは1グレイで1.8倍だった。ただ、肝炎ウイルスによる肝細胞がんの発症リスクは、B型で50倍、C型で87倍で、被爆によるリスクはそれらよりはずっと低い。

 大石主任研究員は「放射線が肝細胞がんの発症に及ぼす影響はあまり考慮されてこなかったが、リスクを表す数値が出た。さらに詳細に検証する必要がある」と話している。

(2011年5月10日朝刊掲載)

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