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社説・コラム

『やまびこ』 遺骨の収集 伝え続ける

 「わしが立ち会える最後だと思う。よう帰ってきた」。戦友の遺骨を胸に抱き、坂井正男さん(92)=福山市北美台=は涙を流した。

 第2次世界大戦後のシベリア抑留中に亡くなった、庄原市東城町内堀出身で陸軍歩兵第231連隊の上田武男さんの遺骨が、同町の遺族の元へ戻った。坂井さんは上田さんの元上官。仲間の生きた証しを届けようと、長年にわたり遺骨の返還に尽力してきた。

 戦後65年の2010年、坂井さんの活動を軸に、遺骨収集の現状と課題を本紙で連載した。戦友や遺族の高齢化、活動を継承する若者の不在。さらに5年が経過し、課題は一層深刻な状況にある。

 「今の平和な日本は、たくさんの人の犠牲で成り立っとる」。当時の坂井さんの言葉が今も胸に残る。まだ多くの遺骨が異国の地に眠っていることを、自分たちは伝え続けなければならない。(山本堅太郎)

(2015年3月10日朝刊掲載)

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