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社説・コラム

社説 福島の復興 被災者の苦難くみ取れ

 きょうで4年を迎える東日本大震災。被災地の中で最も復興の道のりが遠いのが、原発事故による放射線量が高い地域である。宮城県や岩手県と同列に語るのは難しい。

 だからこそ、きのうの安倍晋三首相の記者会見に違和感が拭えない。総じて東北の復興は順調であると強調し、福島についてもロボット産業や再生可能エネルギーの拠点化により、明るい未来がすぐにも待っているかのような言い方をしたからだ。

 5年後に迫った東京五輪についても首相は「何としても復興五輪にしたい」と力を込めた。古里を追われ、いまだ厳しい状況に置かれた福島の人たちに、どう映ったことだろう。

 国は少しずつ解除を進めてきたとはいえ、避難指示は今も10市町村に及ぶ。自主避難を含めた避難生活者はなお12万人近くを数え、そのうち約5万人が県外で暮らしている。まさに先の見えない避難生活の中で「原発事故関連死」も既に1800人を超えたという。

 広島に避難中の被災者たちでつくる団体のアンケートでは、今後の生活拠点については「決めていない」「いま住む自治体に定住」がそれぞれ4割近かった。何より子どもの健康不安が帰郷をためらわせるのだろう。

 確かに福島の被災地のあちこちの民家の庭先や農地には放射性物質を含む土が袋詰めで置かれている。除染に伴う廃棄物や土を一括管理する中間貯蔵施設の整備を政府が急ぐのも、それらが復興の大きな支障となっているからだ。この13日から一部で試験的な搬入も始まる。

 大局的にみれば必要な作業ではあろう。しかし汚染土の保管は少なくとも30年間の長期にわたる。用地を提供し、帰還を断念せねばならない人たちも出てこよう。本格稼働に向けて2千人を超す地権者との用地交渉はこれからだ。丁寧な説明と誠意が必要なのは言うまでもない。

 しかも30年たった後にどうするかのめどは立っていない。地元ではなし崩し的に「最終処分」が押し付けられるのではないかとの懸念がある。それを拭うには何をさておいても地元との信頼関係が求められよう。

 しかし現実はどうなのか。福島第1原発の廃炉作業などにしてもそうだ。首相が言う「アンダーコントロール」が本当とは被災者の多くが感じていないのは明らかだろう。

 先月末にも汚染水の港湾外への流出が続いていた事実を東京電力が公表していなかったことが発覚した。この期に及んでの隠蔽(いんぺい)体質とすれば信じがたい。地元の漁業者の不信感が再び強まったのも当たり前である。

 こうした状況が続くようなら復興もおぼつくまい。政府はこの夏までに福島の「自立」に向けた将来像を決定するという。その前に、目の前に立ちふさがるさまざまな現実を十分に把握すべきではなかろうか。

 国は被災地に膨大な復興予算を注ぐ。きのうは震災で不通となり、現在の帰還困難区域を南北に走るJR常磐線を全線で開通させる方針も決めた。それ自体は朗報かもしれない。しかしインフラ整備をすれば暮らしが再建できるという認識は甘過ぎよう。被災者はどんな苦難に直面し、何を求めているのか―。しっかり声をくみ取り、政策に反映させねばならない。

(2015年3月11日朝刊掲載)

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