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震災に反応 漫画の力 広島で市まんが図書館が講座 社会の推進役に 東日本大震災4年

 東日本大震災から4年。津波被害や東京電力福島第1原発事故に直面し、震災直後から敏感に反応してきたメディアの一つが漫画だった。そうした動きを考察する講座「震災マンガを読む」が、広島市現代美術館(南区)であった。日本マンガ学会理事で北九州市漫画ミュージアムの表智之専門研究員(45)が、震災との関わりを通じて見える、漫画の力に光を当てた。(石井雄一)

 最初に紹介したのは、しりあがり寿「あの日からのマンガ」(エンターブレイン)。2011年3月14日、全国紙の夕刊に掲載された4こま漫画が表紙を飾る。防災グッズを傍らに置いた家族が、不安そうな顔でテレビを見る様子を描く。「無理に笑いを取るよりも、漠然とした不安感を代弁するのも新聞漫画の役割では」と問い掛けた。

 同書は、震災約1カ月後に発売された月刊誌に載った短編「海辺の村」も収める。震災から50年後の日本で、つましい生活を送る人たち。「豊かな生活をおくることをやめ…いつまでも続く幸せを選んだ」。そんな一節が印象的だ。

 表専門研究員は「当時、何を描いても誰かを傷つけてしまうかもしれない状況。それでも漫画家にできるのは、漫画を描き社会に貢献すること。そんな決意が表れている」と力を込める。

 大きな災害や戦争、困窮からの復活は、日本の漫画の特徴的なモチーフでもある。古くは、1923年の関東大震災にさかのぼる。震災後、被災者を勇気づけるため始まった新聞連載が、麻生豊「ノンキナトウサン」だ。新聞漫画の毎日連載の原点にもなった。

 一方で、被曝(ひばく)の描写が議論を呼んだ。福島第1原発事故の影響で鼻血を流す主人公を描いた、雁屋哲・花咲アキラ「美味しんぼ」(小学館)。「福島原発を訪れて鼻血が出るかどうかは疑わしい」とみる。ただ、そうした不安が存在し、それを声高に語れない中で、押し殺されているのは地元の苦しみや痛み。そんな作品全体のメッセージまで深く読めば、一つの考え方として理解できるという。

 原発事故をめぐっては、さまざまな作品が発表されている。原発収束に当たる作業員の日常を描く、竜田一人「いちえふ」(講談社)や、原子力との関係を戯画的に表現した、萩尾望都「なのはな」(小学館)もその一例だ。作品単体では偏って見えても「漫画による表現の全体を見渡せば、バランスが取れている」と解説する。

 時間の経過とともに震災を直接的に描く作品が減りつつある中、広島市西区出身のこうの史代が被災地を描く「日の鳥」(日本文芸社)は、今も週刊誌での連載が続く。素朴な風景を、「妻を探す」ニワトリの視点で捉えている。「被災地を今も気に掛けている思いが伝わってくる」と表専門研究員。

 14年の文化庁メディア芸術祭マンガ部門は、西区出身の津原泰水の短編を原作とした、近藤ようこ「五色の舟」(KADOKAWA)が大賞を受賞した。体の一部がないなどの男女の見せ物小屋一座を描く。そうした喪失からの回復や癒やしの過程を描くことが、今の漫画の傾向の一つになりつつあるという。表専門研究員は「今後もいろいろな形で震災が描かれる。忘れないよう努めることで、社会が前に進んでいく。その役割が漫画にはある」と強調した。

 講座は、震災の記憶の風化を防ごうと、広島市まんが図書館(南区)が企画した。=敬称略

(2015年3月11日朝刊掲載)

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