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社説・コラム

美術散歩 翔べぬハト 世相を問う

中元寺俊幸個展 17日まで。広島市中区立町2の6、ギャラリーヨコタ

 平和の象徴とされるハトが、ここではどれも丸裸にされていたり、骨だけになっていたりする。

 「憲法9条が骨抜きにされ、戦前に逆戻りしているような日本の姿に描かざるを得ない気持ちになって」。不安やいら立ちが筆を運ばせた近作29点が並ぶ。

 契機は昨夏。政府による集団的自衛権の行使容認だ。抽象画を好んで描いてきたが、安佐動物公園(広島市安佐北区)に通い、ハトの骨格標本と向き合う日々が続いた。1938年中国東北部に生まれ、旧ソ連の参戦も体験した。「人が簡単に殺される時代だった。戻ってはならない」

 「翔(と)べなくなったハト」は羽や肉をむしり取られ、悲しみをたたえる亡きがらのよう。だが、骨組みはしっかり残っている、とのメッセージにも思える。

 どの作品からも、喜寿を迎えた作者のやむにやまれぬ気持ちがストレートに届く。安佐北区在住。(森田裕美)

(2015年3月14日朝刊掲載)

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