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社説・コラム

天風録 「核をめぐる深い闇」

 エスカレーターはどんどん潜っていく。どこまで下りるのやら分からぬほど。モスクワの地下鉄ホームは、深いところにあった。核戦争時はシェルターに。そんな想定で設計されたという。重厚さに背筋が少々寒くなった▲おととい本紙が報じた話もぞっとする。4発撃て―。当のソ連を標的の一つに核ミサイルを放てと指示が下ったそうだ。53年前のキューバ危機の折、命じられたのは在沖縄米軍の指揮官▲さすがに思いとどまり、すぐ誤りと分かる。ボタンが押されていたら、あるいは全面核戦争に突入していたかもしれない。今なお愚かな命令やミスはあり得よう。世界に核がある以上、私たちは恐ろしい闇の中にいる▲現に1年前に核兵器を使う準備はできていた、とプーチン大統領が国営テレビでぬけぬけと語った。強引なクリミア併合に向け、形勢不利ならばボタンを押そうと安易に考えていたのか。被爆者ならずとも許しがたい▲現地でロシアの肩を持った日本の元首相も、盛んに核廃絶を唱えたはずだが。核大国に君臨するトップの胸に巣くう深い闇を何とかしないと悪夢が現実のものになりかねない。あのホームが避難民であふれる日が来てはならない。

(2015年3月17日朝刊掲載)

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