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社説・コラム

社説 プーチン「核」発言 人類の未来脅かすのか

 人類の未来のため核兵器をなくしていこうという世界中の動きに対する挑戦ではないか。

 ロシアのプーチン大統領による発言である。昨年2月のウクライナ政変に際し、核兵器を使用する「準備ができていた」と平然と口にした。到底許すことはできない。被爆地広島などで憤りと失望の声が広がったのも当然のことだ。

 ロシアは米国と合わせて世界の核兵器の9割以上を保有する核超大国である。その指導者の意向は核軍縮の流れを左右しかねない。それが分かっていながら、プーチン氏が物議を醸す発言をしたのはなぜなのか。

 ウクライナのクリミア半島編入を宣言して1年に合わせた国営テレビのインタビューで飛び出した。番組自体が政権の意向であり、質問もシナリオ通りだろう。対立する欧米へのけん制もさることながら核大国であることを国内に誇示し、結束を図る思惑もありそうだ。

 それだけに冷静な分析も必要だ。当時のクリミアでは戦闘は起きておらず、本気で核攻撃を仕掛ける意図があったかどうかを疑問視する声もある。

 しかし事の本質はそこにはなかろう。見過ごすことができないのは、核兵器の力さえあれば世界を思い通りに動かせるという「おごり」である。

 そもそも国際司法裁判所は1996年に「一般的に核兵器の使用や威嚇は国際法違反」という勧告的意見を出している。プーチン氏の言動は、それに該当しないのだろうか。

 今回の件に象徴されるようにロシアに核軍縮への意欲が感じられないのは由々しきことである。米オバマ政権と合意したはずの新戦略兵器削減条約(新START)の交渉は一向に進まないままだ。昨年来のウクライナ問題を通じた米国との対立で停滞が決定的になった。

 その中でロシアは米国と比べて遅れていた核戦力の近代化を着々と進めつつある。こうした状況がエスカレートするなら、核兵器使用の危機がいつまた起きてもおかしくない。

 ロシア一国の問題でもない。歯止めをかけるべき核拡散を助長しかねないからだ。ただでさえ核兵器を持つ中国やインド、パキスタンも核戦力の増強を図っていると考えられる。北朝鮮も核兵器開発に固執している。プーチン氏の言動は誤ったメッセージを送るのではないか。

 5年に1回の核拡散防止条約(NPT)再検討会議の開幕が来月に迫った。被爆70年の節目でもある。核兵器は人道に反するという当たり前の認識が最近になって広がりつつある。その機運を生かし、核兵器禁止条約への道筋をどう付けるかが問われる場にしたい。その議論に響くことがあってはならない。

 NPTは本来、ロシアを含む核保有5カ国に核軍縮義務を定めている。この際、国際社会としてロシアの姿勢を厳しくただすことが求められよう。その意味でも日本の役割は重い。

 きのうになって岸田文雄外相が「核兵器の使用はあってはならない」とようやくロシア側に懸念を示したが、発言が報じられてからの反応の鈍さは否めない。安倍政権としてプーチン政権との関係悪化を避けたいのかもしれない。しかし今こそ強く声を上げずして、被爆国を名乗る資格があるだろうか。

(2015年3月18日朝刊掲載)

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