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社説・コラム

天風録 「ガウディと廃炉」

 23年前のバルセロナ五輪。銀メダルに輝いた有森裕子さんの勇姿とともにマラソンコースの背景にそびえ立つサグラダ・ファミリアが心に焼き付いた人もいよう。ガウディが手がけた巨大教会▲日本でいえば明治の世から普請が終わらない「世界一有名な工事現場」。完成まで200年以上と長く語られたが、ここにきて事情が変わったらしい。あと10年ちょっとで完成の日を迎えそうだ。新たな技術の導入で▲何より3Dプリンターのおかげだ。天に向かって伸びる複雑極まりない一大建築。柱など個別の部材づくりに延々と難渋してきたが、今やみるみるうちに前に進む。何より泉下の本人があっと驚いているかもしれない▲こちらも未来の技術でぐっと視界が開けないものか。日本の原発の廃炉のことだ。新たに島根原発も含む5基の工事と向き合う。だが安全に解体する方法や核のごみの処理はいまだ未知の領域。難航の恐れは否めない▲ガウディは未完の美しさを知っていたのか、悔いを残さずに世を去ったそうだ。しかし私たちは元気なうちに「その日」を迎えたい。これが未完の廃炉現場だと、100年先の人たちに後ろ指をさされるのは願い下げである。

(2015年3月18日朝刊掲載)

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