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社説・コラム

天風録 「イモを食え」

 実家の畑でわが子とサツマイモを掘ると、あふれる笑顔にいやされる。地域の食育におけるイモ人気は確かに根強い。泥まみれになって植え、収穫に心躍り―。命を育む土と作物の記憶が幼心にしっかり刻まれるよう祈る▲海の向こうのファーストレディーも同じ思いだろうか。かのミシェル夫人は米ホワイトハウスの一角でずっとイモを育てる。ニンジンやレタスと一緒に日々の食卓に届けたい一心らしい▲70年前まで戦火を交えたこちらの島国。厳しい時代の代名詞との受け止めはもう少数派か。コメの代わりに我慢して。平和が訪れると焼け野原でくわを振るい、国会議事堂の周辺も掘り返した。生きるための糧だった▲まさか昔に戻れというわけではあるまいが。食料自給の議論をめぐり、いざというときはイモを食えばいいと国が言いだした。必要カロリーを賄うには日々6本と。瑞穂の国の田んぼの実りはどうなるというのだろう▲きのう来日したミシェル夫人。家族のふれあいを象徴するイモが同盟国の命運を握る主食になり得ると聞けばびっくりするかもしれない。無農薬のコメづくりを自ら手がけたこともあるアッキー夫人と、どんな会話になるか。

(2015年3月19日朝刊掲載)

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