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社説・コラム

社説 廃炉の時代 厳しい道のり どう進む

 「廃炉の時代」が本格的に幕を開けたといえよう。

 中国電力がきのう島根原発1号機の廃炉を正式に決定した。点検のため5年前から止まっていたが、再び稼働しないまま役割を終える。関西電力美浜原発1、2号機なども含めて4社の計5基の老朽原発が今回、完全に止まることになる。

 4年前の福島第1原発の事故が背景にあるのは明らかであろう。新たな規制基準では老朽化リスクを厳しく見積もり、原発の寿命を原則40年と定めたことが、やはり大きい。

 もはや電力各社にしてもコスト度外視の原発維持ありきでは済まなくなった。現実問題として再稼働への手続きを進める原発と、廃炉し解体する原発との選別を迫られた格好になる。

 中電の苅田知英社長も、安全対策に必要な巨額投資を考えると「費用対効果で劣る」と説明した。3・11後も島根1号機の稼働を模索する動きがあったが廃炉は当然の判断だろう。

 問題はこれからだ。10年以内に運転40年を迎える「予備軍」も10基を超え、廃炉ラッシュの様相を呈しそうだ。電力業界には廃炉への姿勢を強調することで再稼働への抵抗を和らげたい思惑も透けて見える。

 しかし廃炉作業は政府の基本方針通り、原発依存度を下げていくためにも絶対に必要なステップである。今回の決定は出発点にすぎない。長く困難な道のりとなるが、着実に進めたい。

 というのも日本で作業が完了した商業炉は一つもなく、廃炉の技術が確立されているとはいえないからだ。期間は30年にも及ぶといわれる。作業従事者や住民の安全を確保しつつ進めるため、技術や機器の開発をまず急ぐ必要がある。

 それ以上の難題は大量に発生する核のごみだろう。放射性廃棄物や使用済み燃料の処分は一向にめどが立たないままだ。日本の原発政策の最大の問題点が廃炉の際にもネックとなる。

 種類や汚染の度合いによって地中や地下深くに埋めるというが場所は確保できていない。再処理工場稼働の見通しが立たず核燃サイクルも破綻している。これでは廃炉が進んでも、原発のあったところに仮置きのまま保管する状況が生まれよう。地元の反発は避けられまい。

 膨大な費用をどう賄うかも気掛かりだ。小規模出力の原発の場合でも廃炉には数百億円が見込まれる。電気料金に上乗せする分があるとすればどこまで消費者の理解を得られるだろう。丁寧な議論が求められる。

 立地自治体の視点に立てば、廃炉によって原発交付金がなくなることが痛手なのも確かだ。松江市では島根1号機関連の7億円がなくなる計算で、何らかの支援を求めている。国も検討を表明したように、激変緩和のための一定の経過措置は仕方ないのかもしれない。ただ、いつまでも続くものではない。

 この際、原発解体を地域にとっての転機と捉えたい。技術開発のほか人材育成も重要となろう。国や自治体、企業や研究機関が連携し、新たな産業に育てることを考えてもいい。

 戦後の日本が棚上げにしてきた廃炉の現実と、私たちは向き合う。同時にコストもリスクも高い原発の本質が浮かび上がってこよう。その点を直視することも忘れてはならない。

(2015年3月19日朝刊掲載)

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