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在外被爆者集団訴訟 中台15人 国提訴 広島地裁

■記者 山本乃輔

 国外居住を理由に被爆者援護法に基づく健康管理手当の受給権が認められず、精神的苦痛を受けたとして、被爆者1人当たり120万円の慰謝料などを国に求める訴えを台湾と中国に住む被爆者たち計15人が23日、広島地裁に起こした。これまでに米国など7カ国の計約3千人が起こした集団訴訟の一環で、台湾と中国の被爆者は初めて。

 台湾の原告は67~97歳の被爆者11人と亡くなった1人の遺族3人。中国の原告は、広島高等師範学校(現広島大)に留学して被爆した王大文さん(85)=南京市。広島、長崎両市で被爆後に日本を離れ、全員が被爆者健康手帳を持っていた。

 訴えによると、被爆した13人は、国外居住は手当受給権を失うとした1974年の旧厚生省通達で援護の対象外にされたと主張。2003年3月に通達が廃止されるまで「精神的苦痛を被った」としている。

 在外被爆者をめぐっては、通達を違法とした最高裁判決が2007年に確定。国は裁判所が認定した被爆者と順次和解し、慰謝料などを支払っている。

 また同日、韓国に住む51人、米国10人、カナダ3人、ブラジル1人の被爆者も同様の訴えを広島地裁に起こした。


在外被爆者集団訴訟 広島地裁 71人 国と和解

■記者 山本乃輔

 国外居住を理由に健康管理手当の受給権を失い、被爆者援護法から切り捨てられたとして、米国などに住む在外被爆者が国に慰謝料などを求めた広島地裁の集団訴訟は23日、原告71人について、国が1人当たり110万円を支払う内容で和解した。弁護団によると、今回和解したのは米国に住む63人とブラジル7人、カナダ1人の原告計71人。


届かぬ情報 苦渋の選択 誠実な対応 弁護団ら訴え


■記者 金崎由美

 台湾と中国の被爆者が23日、国外居住を理由に手当を支給しなかった国を提訴したことを受け、広島の弁護団と支援者は、広島市中区の広島弁護士会館で記者会見し「世界中にいる被爆者一人一人に、国は誠実に対応しなくてはならない」と訴えた。

 国は在外被爆者援護をめぐる旧厚生省通達が2007年に最高裁で違法と確定後、被爆者と順次和解し慰謝料などを支払っている。

 その条件として、国は訴訟で事実関係が認定されることを求めているが、支援する広島県原水禁の金子哲夫常任理事は「被爆者が組織化されていない中国と台湾には情報が届いていない」と問題点を指摘する。これまで米国や韓国など7カ国3千人以上が集団訴訟に加わってきた一方、中国と台湾の被爆者が提訴するのは初めてという現実がそれを物語る。

 さらに在間秀和弁護士は「国は訴訟を待つのではなく、積極的に補償すべきだ」と批判する。集団訴訟は国の「消極姿勢」に対抗する苦渋の選択なのだ。

 厚生労働省によると現在、中国に61人、台湾に18人の被爆者がいる。今回の提訴では広島、長崎の支援者が現地を訪れ、本人の意向を確認するなど準備を進めた。金子氏は「さらに多くの国の被爆者が当然の権利を求められる状況に進まなくてはならない」と強調した。

(2011年5月24日朝刊掲載)

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