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社説・コラム

社説 安保法制与党合意 「先走り」が過ぎないか

 難解な用語を出しては引っ込め、出しては引っ込めした印象が拭えない。新たな安全保障法制に関する自民、公明による与党協議のことである。

 骨格についてきのう正式合意したが、結論の先送りも目立つようだ。協議を始めて1カ月余りしかたっていない。4月の統一地方選を控えて、懸案はいったん腹に納めたいのだろう。

 それにしても自衛隊の活動範囲を大幅に広げようという動きだ。法制の仕組みも複雑だが、平和国家の行く末に関わる論議としては先走りが過ぎないか。

 例えば朝鮮半島有事を想定し、米軍に後方支援できると定めた周辺事態法の改正だ。「周辺事態」という事実上の地理的制約を廃し、米軍以外の他国軍への支援も可能にするという。

 外務省の説明によると、4月末に改定する日米防衛協力指針(ガイドライン)で「周辺事態は地理的な概念ではなく事態の性質に着目した概念である」と定義している。「事態の性質に着目した概念」とは、漠然としていて理解に苦しむ。具体的にどのような事態を想定しているのか、判然としない。

 集団的自衛権については「存立危機事態」という概念も浮上したが、分かりにくい。政府が昨年7月の閣議決定で定めた「武力行使の新3要件」に該当し、集団的自衛権を行使できる新たな「事態」を指したつもりだったのだろうが、今回は先送りされた。

 さすがに与党間で合意できなかったのだろう。閣議決定の記述自体が曖昧であるため、拡大解釈が生じかねない。政府は日本のシーレーンの機雷掃海を想定していたが、機雷敷設が武力攻撃と同等の深刻な被害をもたらすのか、公明党内では疑念が根強いようだ。

 自衛隊海外派遣を随時可能にする新法の恒久法をめぐっても、自公が一致したとはいえまい。恒久法に基づく後方支援や国連平和維持活動(PKO)以外の人道復興支援への派遣要件について、公明党は例外のない国会の事前承認を求めているが、自民党は例外の余地を残したいという思惑がある。

 合意文には「国会の事前承認を基本とする」とあり、含みを持たせている。「基本とする」とは何を意味するのか。今回は骨格に関しての合意であり、精緻な歯止めをかけられないのなら再検討すべきだろう。

 同時に、安全保障の新たな枠組みが逆に日本の平和と安定を損なうことはないのか、徹底的に議論されなければなるまい。武力攻撃する意図がないとしても、果たして相手に正確に伝わるのかどうか。自衛隊員の身の安全にも関わる問題だ。  日本はこれまで自衛隊を海外に派遣した場合、武力行使と受け止められないよう、「後方地域」などの概念を組み立てて対処してきた。恒久法でなく時限立法でもあった。憲法9条を逸脱しないことを前提に、解釈を積み重ねてきたといえよう。

 合意文は「国会の事前承認」とともに、「他国の『武力の行使』との一体化を防ぐための枠組みを設定すること」を周辺事態法改正や恒久法整備の要件にしている。4月には法案化に向けて与党協議に入る見通しだが、この要件を逸脱することはないのか。慎重の上にも慎重であるべきだ。

(2015年3月21日朝刊掲載)

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