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廃炉の課題 島根原発1号機 <中> 地域振興 頼みの交付金減額へ

経済的自立目指す声も

 松江市と10年前に合併した旧鹿島町。この地で中国電力の島根原発1号機が営業運転を始めたのは、41年前の3月のことだ。着工時から町内は建設作業員や中電の社員が行き交い、にぎわった。

 その後、1号機の隣に建設した2号機が1989年に運転を開始。同じ敷地内に2005年着工した3号機も、ほぼ完成している。

 「廃炉の時代がとうとう来た」。旧鹿島町時代に町商工会会長として原発増設を後押しした製材会社経営の中村宗良さん(78)が、当時を振り返りながら1号機の廃炉決定を感慨深そうに語った。

 島根原発は町の財政も潤した。原発が立地する自治体に国が出す「電源3法交付金」は、松江市と合併した05年3月までに総額99億円近くに上り、道路や集会所の整備が進んだ。地元の古浦地区自治会の亀城幸平会長(65)は「原発で町は変わった」と言う。

 しかし、30年前には1万人に近かった旧鹿島町の人口は現在、7千人を割り、2割以上減った。商工会の会員数もピーク時の79年の343社から180社と、ほぼ半減している。結果的には、原発が中長期的な地域振興につながったとは言い難い。

 中村さんは福島第1原発の事故後、大きく考えを変えたという。原発は当面、必要という立場だが「これからは原発に頼らない地域の活性化を考えなければならない」と力を込める。

 一方で、原発による交付金を重視する声は根強い。電源3法交付金の「権利」を旧鹿島町から引き継いだ松江市は15年度の一般会計の当初予算で、歳入に27億円余りの交付金を見込む。うち2割は消防署員や保育所職員の人件費に充てる。だが、現行制度のままでは1号機分の交付金は17年度から減額される。市政策企画課は「1号機分は少なくとも4億5千万円に上る」と説明する。

 そのため島根県や松江市は、廃炉で減る交付金に替わる支援策を国に求めている。こうした要望を受け、宮沢洋一経済産業相は今月17日、「立地自治体と相談して決めたい」と述べたが、めどは立っていない。

 地元経済界には、1号機を廃炉にする代わりに2号機の再稼働と建設中の3号機の稼働を求める声も多い。原発が動きだせば、定期検査時などに多数の作業員が長期滞在し、経済効果が期待できるためだ。島根経済同友会の宮脇和秀代表幹事は「3号機は最新鋭で安全性も高い。早く動かすべきだ」と強調する。

 だが、住民の間では原発を再び稼働させることへの抵抗感が拭えていない。松江市の市民団体「平和フォーラムしまね」の杉谷肇代表(74)は「2、3号機が稼働すれば、地元のリスクは今より高まる」と懸念を示す。

電源3法交付金
 原発などの建設を進めやすいように、国が立地自治体の基盤整備を目的として1974年に制度化した。「電源開発促進税法」など3法に基づき、国が販売電力量に応じて電力会社から税金を徴収し、自治体に配る。交付金は道路や公共施設の建設、社会福祉費など幅広い分野に使え、財源としての自由度が高い。島根原発の立地自治体である島根県と松江市の場合、同市と合併した旧鹿島町、旧島根町分を含め、76~2013年度に計約990億円を受け取っている。

(2015年3月22日朝刊掲載)

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