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被災者たちの今 東日本大震災4年 <下> 支援 記憶を次代へ…紙芝居上演

 「一日一日、一瞬一瞬を必死に生き抜いた」。広島市の市民グループが7日、東京都千代田区で開いた東日本大震災の支援イベント。約120人を前に紙芝居を上演したのは、被災者で物語のモデルでもある福島県新地町の村上哲夫さん(71)、美保子さん(65)夫妻だ。

 2人で切り盛りしていた割烹(かっぽう)旅館は津波に押し流され、骨組みだけが残った。逃げ延びた避難所で、住民同士で支え合って暮らした。130年の幕を閉じた旅館への惜別の思いも込めた紙芝居は、25枚の絵で物語をつづっている。

 紙芝居を制作したのは、地域の歴史や民話などを作品にしている広島市の市民グループ「まち物語制作委員会」。「被災者の心を癒やし、震災への思いを形に残してもらいたい」と2011年12月から福島県を訪れ、各地の民話や避難体験の聞き取りを重ねてきた。イラストが得意な福本英伸事務局長(58)を中心に114本を制作し、完成後は被災者に送ってきた。

 被災者自らが紙芝居を上演するイベントを今月の4日間、東京で初めて企画した。震災から4年が過ぎ、「記憶を風化させたくない」との思いからだ。県内外で230回上演してきた美保子さんは「忘れずに寄り添ってもらうことが何よりもうれしい」と話す。

 原発事故で全町避難が続く同県浪江町の住民にも、地元の民話などを描いた作品を届けた。各地に分かれて避難生活を送る住民から「古里を追われた人たちをつないでくれる最高の心の支援」と喜びの声が届いた。制作委員会の福本事務局長は「今後も被災者の声を全国に届ける方法を考えていく」と話す。

 昨年8月に広島市で土砂災害が起きて以降、震災への支援活動はかつてほど多くはなくなった。だが、経費を捻出しながら寄り添い続けるグループもある。

 安佐北区のNPO法人「よもぎのアトリエ」。民家などを借り、原発事故で健康不安を抱える被災者に「保養所」を提供している。11年8月から昨年12月までに75家族270人を受け入れ、甲状腺がんに詳しい医師も紹介する。

 昨年、参加者の交通費など約100万円かかった経費は寄付で賄った。メンバーの室本けい子さん(61)は「被爆地の広島だからこそ安心して胸の内を明かしてくれる。年々ニーズが高まっている」。地道に取り組みを続けるつもりだ。(有岡英俊)

(2015年3月11日朝刊掲載)

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