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連載・特集

118万人都市の未来 広島トリプル選を前に 

平和行政 「発信力が低下」不満  問題意識に温度差も

 広島市は4月12日、市長と市議、県議のトリプル選の投開票を迎える。118万人が暮らし、にぎわい、平和を発信する都市のありようをめぐる論戦を通じ、明日を託すリーダーたちを選ぶ4年に1度の機会。中国新聞は平和行政について市民50人にアンケートをし、5段階の評価や課題解決の提言を聞いた。ともに、この街の将来像を考える。(広島市長選取材班)

 核兵器使用の悲惨さを無言で訴える被爆地のシンボル、原爆ドーム(広島市中区)。その前で連日、観光客にガイドを申し出ている若者がいる。広島修道大4年の村上正晃さん(22)=西区。被爆者たちが運営するボランティアグループに「弟子入り」し、年明けから通い詰める。

 「最悪の兵器がまだ世界に1万6千発もある。問題意識を持つ人を増やさないと」。中国新聞のアンケートでは、市の核兵器廃絶に取り組む姿勢を5段階評価で「2」とした。「肝心の被爆国政府は核抑止力にすがり、廃絶を阻んでいる。改めるよう働き掛けをもっと強めてほしい」

 「長崎市に比べ、国への物言いが手ぬるい」「抗議や要請がルーティン化している」…。アンケートでは村上さんと同様の指摘が圧倒的に多かった。

 それを裏付けるようなやりとりが今月13日もあった。核兵器禁止に向けた法的措置への賛同を求め、オーストリア政府が送ってきた文書に、日本は「核の傘」を差し出す米国への配慮から賛同しない方針を固めている。市の対応を記者会見で問われた松井一実市長は「長崎市が賛同を求める文書を準備しており、連絡を取ってきている」と述べるにとどめた。

 「自治体外交」を掲げ、海外で平和発信を重ねた秋葉忠利前市長から一転、ヒロシマに各国の要人たちを招き、被爆地の願いを感じてもらう「迎える平和」を打ち出した現市政。今夏の国連軍縮会議など、国際会議誘致にも成功した。が、発信力が落ちたとの不満はくすぶる。

 来月、核拡散防止条約(NPT)再検討会議が開かれる米ニューヨークを訪れる被爆者佐久間邦彦さん(70)=西区=は「オーストリアをはじめ核軍縮に熱心な国々が核兵器なき世界の実現へ攻勢を強めている今こそ、プレッシャーのかけ時なのに」という。昨年の平和記念式典に遺族代表として参列した加藤千季(かづき)さん(30)=中区=は「なぜ主体的に動かないのかと過激派組織『イスラム国』人質事件でも感じた。真っ先に平和のメッセージを発したらいい」。

 あの日から70年。被爆地全体の訴求力低下を懸念する声がある。身を削って体験を伝えてきた被爆者は老いを深め、平均年齢は80歳に迫る。継承へ危機感を感じた市は3年前から、被爆者の体験と思いを受け継ぎ、後世に伝える人材として「被爆体験伝承者」を育て始めた。第1期生が来月、デビューする。

 「頑張っているが市民全体を巻き込めていない。平和問題に意識がある人とない人の差が大きい」。原爆被害者相談員の会(中区)の古寺愛子事務局長(38)の指摘だ。平和教育の充実、若者の関心を引きそうな催しやキャッチフレーズの工夫、平和研究を深めるシンクタンクの創設…。アンケートでは具体案も寄せられた。核時代の終わりを手繰り寄せるため、市民をどうまとめるのか―。発信力に加え、大胆で柔らかい発想も求められている。

■核兵器廃絶策の評価「2.9」
 10~17日に被爆者や被爆2世、3世、平和活動に関わる市民団体メンバーたち計50人に「核兵器廃絶に向けた市の取り組みをどう評価しますか」と尋ね、5段階で答えてもらった。「評価する=5」3人▽「まあまあ評価する=4」14人▽「どちらとも言えない=3」17人▽「あまり評価しない=2」9人▽「評価しない=1」7人。平均は2.9だった。

(2015年3月21日朝刊掲載)

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