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社説・コラム

天風録 「ワジワジーする」

 コンビニでお釣りをもらい、出ようとしたら店員が呼び止める。「レシート、大丈夫ですか」。ぽかんとした当方、ついおうむ返しで「大丈夫です」。あの日から、もやもやが晴れない▲「ご不要ですか」の言い換えらしい。耳ざとさで知られる三省堂の国語辞典、通称「三国(さんこく)」には早々と、俗な表現として載っている。だが新語ならともかく、慣れた言葉の意味をずらされると、どうにも収まりが悪い▲入学式にぴったりの「粛々」も昨今は、気になる用例が幅を利かせている。もともとは、厳かで物静かなさま。版を昨年改めた「三国」に別の語釈が加わった。<何が起こっても、予定どおり着実におこなうようす>▲米軍普天間飛行場の移設計画が進む沖縄で、言葉通りの事態が起きている。県民挙げて異を唱え、あらがう民意を鼻であしらう「粛々」である。政治家の、それも政権与党の専売特許ともいえる用語だろう。はた目には、いけしゃあしゃあと映るが▲地元の新聞紙面に時折、方言の「ワジワジー」が見える。イライラするに似た意味らしいが、怒っている、腹が立つ―といった共通語訳が時に添えられる。高じる憤懣(ふんまん)を本土にも訴えているのに違いない。

(2015年3月26日朝刊掲載)

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