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社説・コラム

[託す一票 統一地方選 地方の現場から] 学生団体「リンガ・フランカ」メンバー 福岡奈織さん

福岡奈織さん(22)=広島市安芸区

 
心に響く平和施策必要

 人びとの心を戦争に向かわせないために、被爆地の自治体が果たすべき役割は増していると思う。あの日から70年となる今、広島市民でさえ、核や世界平和に関する問題意識を持つ人は一部に限られる。ロシアが核兵器使用の可能性に言及するなど、平和に逆行する流れが強まっている。

 「リンガ・フランカ」は、平和問題に関心が高い広島県内の学生有志で2年前に設立。被爆者と若者の交流イベント「はちろくトーク」を広島市を中心に不定期開催している。ドリンクを片手に被爆証言を聴き、自由に感想を語り合う。気軽な雰囲気だ。

 母方の祖父は被爆者。でも、私が生まれた時は既に亡くなっていて、最近までその体験を知らなかった。私自身、市内の小、中学校で平和教育を受け、「原爆は駄目だ」と思ってはいた。でも興味を持てたのは高校を卒業する前。それも学外の人との出会いがきっかけだった。

 「平和が大事」なのは当たり前。そこで思考は止まりがちだ。「継承を」と言われても、何を担えばいいか分からない。「もう聞き尽くした」と関心を持てない人もいる。学ぼうにも敷居が高い。そんな同世代の気持ちも分かる。イベントを通し、被爆者と若者を結び付けたい。平和とは何か、深く考えてもらう場にしたい。

 昨年は東京の非政府組織(NGO)主催の船旅に参加。被爆者と共に世界を巡り、各地の戦争体験者とも交流した。ことしは県被団協(坪井直理事長)の被爆70年記念事業の実行委員会に加わり、4月と6月に若者向けの催しを開く。

 被爆者が自ら体験を語れる時間は少なくなっている。一人一人が「今、伝えたい」と、後の世のため身を削っている。広島市をはじめとした自治体も、その思いに応えてほしい。「平和都市」を掲げて原爆はいけないと繰り返すだけでは駄目。心に響かせないと。実際、市がどのような平和施策を進めているか知らない市民も多い。企画力やアピール力も求められる。

 例えば、2020年の東京五輪を見越し、海外からの旅行者を広島に引き込む仕掛けを今から考えてほしい。被爆者の思いを踏まえて、広島はこんな場所だと自分の言葉で伝えられる人材も今以上に必要となる。二度と過ちを繰り返さないため、幅広い市民を巻き込む工夫を凝らしてほしい。(聞き手は田中美千子)

(2015年3月27日朝刊掲載)

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