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社説・コラム

社説 広島市長選 まちの未来を論じ合え

 知名度なら世界でも有数の平和都市であり、118万の人口を抱える政令指定都市。そのリーダーを決める広島市長選が、あす告示される。

 再選を目指す現職と新人の計5人の争いとなりそうだ。現職の手腕と施策への評価が何より問われるのは間違いなかろう。ただ広島市はさまざまな難しい課題に直面している。有権者にとっても、わがまちの明日を見つめ直す機会にしたい。

 各陣営にとって、重きを置く政策はそれぞれ異なろう。ただ今回は最低限、論じ合うべきテーマがあるのではないか。

 まずは防災であろう。昨年8月に安佐南、安佐北区で74人が亡くなった土砂災害の衝撃は、市民にとって計り知れない。同じような山際の住宅地は多い。誰にとっても人ごとでない。復興の急がれる被災地はむろん、どの地域にも安全なまちづくりは関心事に違いない。

 不十分さが指摘された危機管理体制が本当の意味で立て直せるかどうか。新市長のリーダーシップの下に住民の防災力を高めていく方策も欠かせない。

 もちろんその議論は、まちづくり全般に関わってくる。

 高度成長期に開発された郊外の団地などでは、先んじて人口減少や高齢化が進む。災害に備える視点から見てもコミュニティーの再生は難しいが、なおざりにできない課題だ。さらには地域の医療・福祉をどうするかも避けては通れまい。

 一方で都市全体の活性化策の練り直しも待ったなしとなる。中国地方の中枢都市といえども遠からず人口減に直面するという予測があるからだ。

 一極集中を是正し、東京から地方への人の流れをつくるための都市間競争が既に始まっていよう。広島がどこまで存在感を発揮できるか正念場だろう。

 例えば懸案の旧広島市民球場の跡地の使い方が試金石の一つになるのは確かだ。ただ、その問題が全てではない。近未来に広島をどんな魅力のある都市にしたいのか、明確なビジョンが求められてこよう。

 被爆70年の節目の選挙でもある。当然語られるべきは、被爆地の代表としての重い役割だ。核兵器廃絶と恒久平和を世界に発信していく責任がある。

 来月末から米ニューヨークでは5年に1回の核拡散防止条約(NPT)再検討会議が始まる。過去の例からいえば新市長が出席することになろう。このところ核兵器の非人道性を糾弾する国際世論が高まる半面、具体的な核軍縮への動きは停滞している。その中で強いメッセージを送ることができるか。ことしの平和宣言も、例年以上に注目を集めることになろう。

 さらに被爆者の一段の高齢化に伴い、援護策の充実とともに体験をどう継承していくかの手だても急がれるはずだ。

 2週間にわたる論戦を通じ、こうした市政の課題が掘り下げられるのを期待する。

 東日本大震災の直後だった前回の市長選は、3期務めた当時の現職の引退で新人同士の激戦だったにもかかわらず、投票率は49・08%と半数を切った。

 前回は棄権した有権者にしても今度は1票の権利を行使し、市政に参加する姿勢を持ってほしい。そのためにも各立候補者の主張に耳を傾け、中身をしっかり見極めたい。

(2015年3月28日朝刊掲載)

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