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社説・コラム

天風録 「パラオの70年」

 不思議なことがあるものだ。パラオで旧日本海軍の沈船に中国国旗を結び付ける悪ふざけが報じられた後、旗はいつの間にか消えていた。レメンゲサウ大統領も当初から不快感をあらわにしていたが、死者への礼を失した者は一体誰やら▲船は給油艦「石廊(いろう)」。気象予報でおなじみの、伊豆半島の岬の名である。本紙は以前にも潜水写真の専門家、田中正文さんによる石廊をご覧に入れた。船体の保存状態が良いため、今はダイバーの人気スポットという▲船が歓迎してくれる時と、そうでない時がある―。この船目指して潜るに当たって、田中さんはガイドにそう教わった。運命を共にした兵たちが、声なき声を上げているのだろうか▲激戦地のペリリュー島では、1万人以上の日本兵がたおれた。暗号電報「サクラ、サクラ」が玉砕攻撃の合図だったという。平和な今の時代なら、心浮き立つ響きなのに。写真家は洞窟陣地の跡で卒塔婆を捉えていた▲ペリリュー島には約2600柱の遺骨が取り残されている。全員見つかるまで努力する、慰霊碑も維持管理したい、と大統領は通信社の取材に答えていた。お手数をかけて申し訳ない、と礼を尽くしたい言葉である。

(2015年3月29日朝刊掲載)

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