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「人類危険にさらす」 露核先制使用想定 広島 怒りの声噴出

 過ちを繰り返すな―。ロシア軍が先月中旬の大規模演習の際に核兵器の限定的先制使用の可能性を想定していたことが分かった1日、被爆地広島は抗議のボルテージを上げた。ことし被爆70年。廃絶の機運に水を差すばかりか、非人道性を顧みずに、核の矛を振りかざす大国の姿勢に、被爆者たちは危機感を一層強めている。(田中美千子、藤村潤平)

 「人類を危険にさらす行為だ」。広島県被団協の坪井直理事長(89)は、怒りをあらわにした。ロシアのプーチン大統領は演習と同時期のインタビューで、ウクライナ危機の際に核使用準備を指示していたと明かしたばかり。「ロシアに刺激され、他の核兵器保有国やテロ組織まで危険な行動に出かねない。断固抗議する」。もう一つの県被団協の大越和郎理事長代行(74)も「常軌を逸している。核抑止論は明らかにまやかし。自国の力を誇示し、主張を押し通すための武器にしている」と憤った。

 ロシアがウクライナ南部のクリミアを編入して1年、欧米との対立は深まるばかり。世界にある1万6千発の核弾頭のうち9割を占める米ロの軍縮交渉には悲観的な空気が漂う。27日から米ニューヨークの国連本部で始まる5年に1度の核拡散防止条約(NPT)再検討会議で、核兵器の非人道性をてこに廃絶のステップを進めたい非保有国や非政府組織(NGO)の一層の反発も招きそうだ。

 会議に合わせて県原水協からニューヨークへ派遣される広島市立大2年の新庄沙穂さん(19)は「核兵器を威嚇に使うとは卑劣。世界の指導者がヒロシマから何も学べていないのが悔しい。原爆の恐ろしさを各国の人たちの心に訴えたい」と決意する。NGOの一員として参加する広島平和文化センターの小溝泰義理事長も「大国の指導者がむごたらしい非人道兵器の使用を想定するとは、恥ずべきことだ。市民社会の力を結集し、関係国で新たな安全保障の在り方を議論するよう働き掛けないといけない」と力を込めた。

 日本被団協の田中熙巳(てるみ)事務局長(82)は核兵器保有国と非保有国の橋渡しをして「核兵器なき世界」を目指すという日本政府の姿勢に矛先を向ける。「悠長な訴えをしている場合ではない。被爆国として全力で取り組まなければ惨禍は繰り返される」。核兵器の禁止や廃絶へ、リーダーシップを発揮するよう求めた。

(2015年4月2日朝刊掲載)

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