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『フクシマとヒロシマ』 原発事故後 福島に滞在 避難者ら4割 内部被曝 

■記者 衣川圭

 福島第1原発事故を受け、救援活動などで現地入りした人や、現地から長崎県に避難している人たちを長崎大病院(長崎市)などが調べたところ、約4割が内部被曝(ひばく)していることが分かった。原発作業員以外の体内放射能の測定結果が明らかになるのは初めて。健康影響は考えなくていいレベルという。同大の研究グループは5日、広島市中区で開かれる「原子爆弾後障害研究会」で報告する。

 同大病院は3月14日から、福島県に派遣された大学や長崎県職員のほか被災地からの避難者を対象に、ホールボディーカウンター(全身測定装置)を使って体内放射能を検査している。同月末までに検査を受けた計87人を分析したところ、通常は検出されない放射性ヨウ素131を34人(39%)から、セシウム137を22人(25%)から検出した。

 ヨウ素は体重1キロ当たり平均8.2ベクレル、セシウムは同12.5ベクレルだった。人間(成人)の体内には通常でも、放射性物質のカリウム40が50~70ベクレル存在することから、健康影響はないと考えられるという。

 研究グループに参加した長崎大先導生命科学研究支援センターの松田尚樹教授は「ヨウ素やセシウムの値は予想の範囲内だった。呼吸を通じて取り込んだものが大半ではないか」とみる。4月以降に福島県内に入り、測定を受けた人の検出量はゼロに近づいているという。

 松田教授は「早期の内部被曝結果がデータとして現れた。原発との距離や方向、滞在時間などの行動パターンと合わせて解析することで、今後の研究に生かせるのではないか」と話している。


<解説>周辺住民の測定が急務

■記者 衣川圭

 長崎大の調査研究で福島第1原発の事故後、福島県に一時滞在した人の内部被曝が明らかになった。放射性物質の検出はごく微量。しかし今なお放射性物質の放出が続く原発近くに住む人は、さらに内部被曝している可能性がある。放射性物質は時間とともに、尿などで排出されていく。周辺住民の健康管理に役立てるため、できるだけ早く被曝量の実態を測定しておくことが求められている。

 国が示す野菜のヨウ素131の暫定基準値は1キロ当たり2千ベクレル。単純比較はできないが、今回検出された平均8.2ベクレルが微量だと分かる。

 だが広島大原爆放射線医科学研究所元所長の鎌田七男医師は「内部被曝を侮ってはいけない」と指摘する。外部被曝に比べ、人体への影響が大きいからだ。時間が経過するほど、内部被曝の実態は分からなくなる。「『分からない』は将来『なかった』になる可能性がある。できるだけ早く多くの人の内部被曝量をデータとして残しておくべきだ」と提言する。

 福島県二本松市は独自に、県外の医療機関と連携して、妊婦や子ども、屋外作業時間の長い人たちの内部被曝を調査する方針を示している。そこに住む人たちの被曝に対する不安は相当だろう。

 その不安を拭い去るには住民の被曝量を測定し、個々に示してあげることだ。ホールボディーカウンターを備えた研究施設は全国にある。関連機関が連携し、できるだけ早く検査に着手することを考えてはどうか。

(2011年6月2日朝刊掲載)

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