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社説・コラム

天風録 「原爆ドーム…積み上げる願い」

 れんがの積み方は、お国によって違うらしい。「れんが博士」水野信太郎さんの著作に教わる。日本の近代建築で最初に一派を成したのはフランス式で、世界遺産の群馬・富岡製糸場で今も見られる▲だが激動の明治も少々落ち着くと、主流はイギリス式へ。ブロックの長い面を並べた段と、小さな両端ばかりの段を交互に組んで強くした。原爆ドームがその例である。あの爆風に耐え、よみがえった街に今なお立つ▲誕生当時に思いをはせてみる。大量のれんがはいずこから運ばれてきたのだろう。帳簿類は、あの日焼かれた。残された手掛かりは刻印である。瀬戸内沿岸に連なるいくつかの工場へとたどりつく▲その一つが松葉菱。二つの松葉のダイヤの中に、数字や文字を刻む。香川県内にある会社の当時のマーク。組んでしまえば目に付きにくい。今でいえば保証の印だろうが、建物がこれほど、数奇な運命をたどろうとは▲その名を変えながら、ドームはきょう誕生から100年を迎えた。無言のうちに惨禍を伝える「証言者」を、世界の人々が仰ぎ見る。核なき世界への願いを、その胸に積み上げていくだろう。次の100年もその先も、揺るぎなきように。

(2015年4月5日朝刊掲載)

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