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社説・コラム

社説 イラン核問題 合意の正念場これから

 核問題の包括的な解決に向け、欧米など6カ国とイランが交渉の枠組みに合意した。核兵器製造につながる恐れのあるウラン濃縮を制限し、国際原子力機関(IAEA)の監視下に置く内容である。

 決裂すれば、イランの核武装というさらなる危機を招きかねない。阻止する選択肢は軍事的行動に限られてしまう。それを避けようとする外交解決の努力は一定に評価したい。

 6月末までの最終合意を目指し、今後は細部を詰める作業に移る。中東での核拡散を食い止められるか、引き続き注視しなければならない。

 合意の柱は、イランが保有する濃縮済みウランと濃縮に使う遠心分離機を大幅に減らすことである。これによって核爆弾1個分の濃縮ウランを得るまでにかかる時間を、最短でも1年に引き延ばせるという。仮にイランが核武装へと転じても、外交や軍事攻撃などで対処できる余地を残したいとする米国の考えに基づく。

 だが、楽観視はできない。合意内容について米国とイランはそれぞれ食い違う説明文書を発表し、重要な部分の解釈で隔たりが露呈している。

 例えば、欧米や国連による対イラン制裁の解除の手順がそうである。共同声明ではIAEAが合意通りに実施したと認めた時点での解除としている。しかし、イラン側はIAEAの確認に言及していない。米国側は制裁の完全な解除でなく「一時停止」とし、約束が破られれば元に戻すと記す。

 両国とも、自分たちに都合よく解釈せざるを得ないのはなぜか。国内に核協議をよしとしない保守派を抱えており、無視できないほどの突き上げを食っているからである。

 米国では早速、野党共和党が過半数を占める議会から批判の声が上がっている。オバマ大統領は合意を「歴史的だ」と自賛するが、早計だろう。合意内容を議会で丁寧に説明すべきだ。

 イランの指導者にしても、国際社会の不信感が根深いことを忘れてはいけない。そもそも核拡散防止条約(NPT)に批准しながら、18年にわたって秘密裏に高濃度のウラン濃縮を進めていた。IAEAの査察にも協力的ではなかった。「平和目的」との主張が、しらじらしく聞こえるゆえんだろう。

 曲がりなりにも枠組み合意に至ったのは、対話路線のロウハニ大統領が暫定合意を守った点を欧米側が評価したからだ。核査察官の立ち入りの全面受け入れなど、透明性を確保する一層の努力が求められる。

 気掛かりは、イランにウラン濃縮の続行を認めた点である。

 サウジアラビアをはじめとするイスラム教スンニ派のアラブ諸国は、シーア派であるイランの台頭に懸念を強めている。対抗策として「わが国も」と考える可能性は小さくない。

 事実上の核兵器保有国であるイスラエルは、イランへの攻撃も辞さないとけん制する。混乱する中東がさらに不安定となる危険性をはらんでいる。

 最終合意で、IAEAによる査察と検証の徹底や、ウラン濃縮を平和目的にとどめる歯止めを明確にする必要があろう。そうでなければ、新たな核拡散につながりかねない。交渉は、これからが正念場である。

(2015年4月6日朝刊掲載)

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