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社説・コラム

天風録 「心通う言葉」

 別れ際にどんな言葉を掛けるか。何げないひと言が意外と味わい深い。広島弁で、よく耳にするのが「ほいじゃあね」。「元気で」「会えてよかった」「またね」とさまざまな思いがこもる▲沖縄の島言葉(しまくとぅば)には「さよなら」に当たるものがないらしい。代わりに「マタヤーサイ(またね)」と言うのがおなじみだとか。さすが、「イチャリバチョーデー(行き合えば兄弟)」を人付き合いの哲学とする土地柄▲そんな島からの去り際、菅義偉(すが・よしひで)官房長官はいったい何をつぶやいたのだろう。お膳立てがようやく整い、翁長雄志(おなが・たけし)知事との会談がきのう実現した。1回こっきりにはせず、県民の心を酌むやりとりをぜひ続けてもらいたい▲言葉は政治家の命である。翁長知事も思い入れは強いようだ。那覇市長時代には、市役所の窓口や行事で島言葉を根付かせる運動を始めた。きのうは菅氏の好む「粛々と」を聞き逃さず、上から目線だと苦言を呈した▲さて政府はなお、同じフレーズを使い続けるのかどうか。菅氏の古里秋田には、「へばな」という別れのあいさつがある。意味は「ほいじゃあね」と同じでこれまた含蓄に富む。対話には、方言を使った方が心通う気もする。

(2015年4月6日朝刊掲載)

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