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社説・コラム

天風録 「水底の大和」

 敗戦翌年、苦り切って振り返る昭和天皇の言葉が独白録に残る。「捨鉢(すてばち)の決戦に出動し、作戦不一致、全く馬鹿馬鹿(ばかばか)しい戦闘であつた」と。むざむざ「とつておきの大和」を失った悔しさがにじむ▲70年前のきょう大和は波間に消えた。沖縄へ「水上特攻」に向かう途中の徳之島沖で米軍機の猛攻撃を受け、3千人余りが運命をともにする。不沈と信じられた巨大艦。命名した昭和天皇ならずとも衝撃は大きかった▲「生まれ故郷」の呉市で戦艦大和会がきょう10年ぶりに追悼式を開く。生き残った乗員の多くが亡くなり、会員も高齢化している。それでも節目を前に活動を再開させたのは犠牲者の無念を後世に伝えたい一念だろう▲思いを引き継ぎたい。今も太平洋の島に海原に、多くの人々が眠る。あす天皇、皇后両陛下のパラオ訪問。戦後60年のサイパンに続く海外への慰霊の旅は、やはり日本の古名を冠する巡視船あきつしまが宿泊所となる▲「大和が沈む時は国が沈む時」。乗員の間で語られていた通り沖縄は戦火に巻き込まれ、本土の都市が焼き尽くされた。国は再び浮上したが、いつまでも耳を傾けなくてはならない。戦争で散り、水底に眠る声なき声に。

(2015年4月7日朝刊掲載)

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