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社説・コラム

社説 教科書検定結果 複眼的視点どう補うか

 来年春から中学校で使われる教科書の検定結果が、おととい文部科学省から公表された。  昨年改定された学習指導要領解説書と検定基準が初めて適用されたことで注目を集めていた。総じていえば安倍政権の意向を踏まえ、政府の立場を教科書に反映する傾向が各社の横並びで強まったとみていい。

 それが、教育現場にどのような影響をもたらすか。内容によっては一面的な知識だけを子どもたちに教えることになりかねない点を、関係者は十分に認識しておくべきであろう。

 象徴が社会科の全ての教科書が竹島と尖閣諸島を取り上げたことだ。北方領土を含めて、日本の領土に関する分量はこれまでの倍以上に膨らむという。それぞれについて、2ページの特集を組む破格の扱いをしている教科書もあるという。

 もちろん日本の領土をどう守るかについて、次代を担う子どもたちがしっかりと学ぶ意味は十分あろう。ただ問われるのはバランスではないか。

 竹島や尖閣にしても、日本固有の領土であることは言うまでもない。ただ実際問題として韓国や中国の一方的な主張によって外交上の懸案となり、日々報道されている。

 そうした点については、各社の教科書では記述がほとんどないようだ。とはいえグローバル時代に、さまざまな国と向き合える人材を育てるのが日本の急務でもあるはずだ。日本の立場を踏まえつつ、近隣国がどう考えているかを何らかの形で併記しておく。そんな方法もあり得るのではなかろうか。

 同じようなことは歴史をめぐる記述についてもいえる。

 検定基準においては日本の戦争に関しても政府見解に沿うよう求めた。今回も戦後補償問題や東京裁判などについて検定意見が付き、修正されたケースがあった。一つ気掛かりなのは教科書会社が検定合格を優先し、自主規制した傾向も読み取れることだ。つまり近隣諸国に対する加害の歴史について、ことさら触れない方がいい、とする空気が強まってきていないか。

 過去の戦争と植民地支配に関する歴史認識がどうあるべきかは今まさに議論が続いている。それは教育現場でどう教えるかと関わってくる話のはずだ。

 各地の教育委員会が、どの教科書を採択するかに今後の焦点は移っていこう。子どもたちの未来を育む中身かどうか、十分に精査してもらいたい。

 というのも中央教育審議会が双方向の討議などを通じて解決を図る「アクティブ・ラーニング」を掲げているからだ。かつてのような知識一辺倒ではなく問題を自ら探し、かつ複眼的に物事を見る能力が求められていると言い換えてもいい。

 例えば今回の教科書の多くでは、東日本大震災や福島第1原発の事故をどう教えるかも問われてくる。過去の歴史の評価ではなく、現在進行形で動いているテーマである。しかも正解が必ずしも用意されているわけではない。教科書の中身だけを教えて十分なはずがなかろう。

 新しい教科書を踏まえつつ、さまざまな問題について教室で議論をぶつけ合いたい。その営みを補うものとして新聞記事を活用する手法も考えられよう。教育現場に、あらためて創意工夫が求められる。

(2015年4月8日朝刊掲載)

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