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戦後70年 志の軌跡 反戦 遺品は語る 四国五郎さん追悼展 きょうから広島

 峠三吉の「原爆詩集」の表紙絵を手掛けるなど、被爆地から反戦平和の思いをまっすぐに絵筆に託し続けた画家四国五郎さん。昨年3月に89歳で亡くなった四国さんが残した作品や資料の整理が進んでいる。平和をめぐる国内外の時世を映す絵画、峠ら文化人との交友やシベリア抑留時の現物資料…。四国さんの遺志を継ごうと市民有志が8日から、旧日本銀行広島支店(広島市中区)で開く追悼・回顧展で公開する。(森田裕美)

 四国さんは1944年に徴兵され、シベリア抑留を体験。48年に帰郷して最愛の弟の被爆死を知り、それが活動の原点となった。広島市役所に勤めながら49年に峠らが中心となって創刊した詩誌「われらの詩(うた)」にも反戦詩や表紙絵を寄せた。朝鮮戦争さなかの言論統制が厳しい時代には、社会への批判を詩と絵のセットにして街頭に張る「辻詩」も峠らと作成。55年には現在も続く広島平和美術展を創設し、運営の柱を担った。

 新たに見つかったのは、52年6月20日付で「ただ一つの思想と 唯一つの情熱と」と峠の直筆メッセージが書き込まれた「原爆詩集」。四国が表紙絵を手掛けた私家版ではなく、同年青木書店から出版された文庫版。辻詩も6枚ほど残されていた。

 四国さんが生前に書き残した文章にたびたび登場する、シベリアで使った手製の木のスプーンやリュックサックなど、厳しい抑留生活を物語る品々も出てきた。戦地で、靴の中に隠して書き続けたという豆日記とその靴からは、四国さんの執念が伝わる。

 時代を映す絵画の優品も。負の記憶を無言で伝える冬の原爆ドーム。悲しみをたたえながら未来への希望とぬくもりを伝える油彩画は96年の作。サインと共に「世界文化遺産決定を聞いた12月7日(土) 描く」と記されている。

 いずれも広島市内で保管されていた。四国さんが戦前から60年余り書き続けた日記や回想録に続いて見つかった。「記録を裏付け、四国さんの生きた時代や思いを伝える貴重な資料」と有志の会が、作品に加え、展示を決めた。

 追悼・回顧展は「優しい視線・静かな怒り」と題し、油彩画をはじめ、広島の風景を描いた水彩画や、「絵本 おこりじぞう」の原画など計約300点を紹介する。原爆資料館長を務めた高橋昭博さん(2011年に80歳で死去)の被爆体験を基に四国さんが描いた絵を掲載する米マサチューセッツ工科大(MIT)のインターネットサイトコーナーも。運営する同大のジョン・ダワー名誉教授から届いたメッセージなどを披露する。

 四国さんの長男光さん(58)は「父が表現を通じて塗り込めようとしたメッセージをくみ取ってほしい」と話している。

 同展は20日まで。

(2015年4月8日朝刊掲載)

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