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社説・コラム

『潮流』 NPT会議と若者たち

■ヒロシマ平和メディアセンター編集部長・宮崎智三

 広島の被爆者が語る「あの日」の惨状、耳を傾ける米国の人たち。10年前の5月初め、ニューヨークのセントラルパークであった平和集会の取材で、核兵器廃絶を願う市民の確かな熱気を感じた。

 ところが翌日、国連本部で開幕した5年に1度の核拡散防止条約(NPT)再検討会議では一転、「冷淡さ」に困惑した。核軍縮をめぐる核兵器保有国、特にブッシュ政権下の米国の姿勢のことだ。

 肝心の核超大国に歩み寄る態度が見られないまま、4週間に及ぶ会議は、何ら成果を挙げられず幕を閉じた。

 今月27日から、再検討会議が開かれる。被爆70年のことし、1週間ほどだが、取材の輪に中国新聞ジュニアライターの高校生2人が加わる。若者の集まりでは、被爆地広島の声を届ける役割も負う。核保有国の壁を実感することもあろう。それに負けない市民の熱気も感じるに違いない。

 本人たちはもちろん、送り出す大人にとっても、気になるのが、会議自体の行方だ。2000年と10年は成果があったから、今回は「失敗」する順番か。そんな予測もあるようだが、耳を貸すまい。

 確かに、イランの核開発問題に対話解決の道筋が見えてきたものの、中東は依然として混迷を深めている。ロシアは周辺の非核保有国に核兵器で脅しを掛けている…。

 もっとも、マイナス要素ばかりではない。核兵器がいかに非人道的か、理解は国際的に広がっている。

 その波は、原爆を落とした国にも及んでいる。昨日の本紙に載った米国での世論調査結果に思わず膝を打った。原爆投下正当化論が根強い中、18~29歳の若者の間では正当化論が半数を切ったという。

 既成概念にとらわれない若者だからこそ、何か見えてくるはずだ。壁をどう乗り越えるのか、まずは、ニューヨークに集う各国の若者と知恵を出し合ってほしい。

(2015年4月9日朝刊掲載)

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