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社説・コラム

天風録 「高等弁務官の幻」

 アウトローでも、強きをくじき弱きを助ける人を義賊と呼ぶ。西洋ではロビンフッドか、怪傑ゾロか。沖縄にはウンタマギルーの伝承がある。26年前に小林薫さん主演で映画化されて、当方も知った▲復帰前とおぼしき時代、製糖工場でこき使われる主人公が神の力を得て義賊に。敵役の親方がへつらう異国の高等弁務官も登場し、「無愛想な人」という意味のカマジサーと名乗らせた。今思うに、風刺が効いている▲実在の高等弁務官にキャラウェイ氏がいた。翁長雄志(おなが・たけし)知事が先日、その名を引き合いに出し、政権の「粛々と」発言に問答無用の姿勢を感じる―と批判した。キャラウェイ氏は在任中、「沖縄で自治は神話である」と公言し物議を醸したという▲沖縄県は復帰前、琉球政府と呼ばれ、行政主席を担いだ。その上にさらに君臨したのが、米国防長官の任命した高等弁務官である。翁長氏が「軍政下で過酷な自治権獲得運動をやってまいりました」と述べるゆえんだ▲おととい、「新基地反対」の民意を示す基金の創設が発表された。保守にくみしてきた地元の経済人たちも名を連ねる。政権が「上から目線」を正さないようだと、義人が粛々と、その数を増す。

(2015年4月11日朝刊掲載)

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