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社説・コラム

社説 広島市長に松井氏再選 実行力が一層問われる

 広島市長に松井一実氏が再び選ばれた。自民、公明、民主各党の推薦を受け、現職の強みを生かして幅広く支持層を固めた結果だろう。

 圧勝ではあるが、市民の関心を一手に集めるような争点に乏しく、論戦が盛り上がったとはいえまい。選挙を棄権する人が増える流れの中で、投票率も思わしくなかった。

 松井氏の1期4年を振り返ると、官僚出身ならではの手堅さと調整能力は随所に見られたといえよう。既に青写真が描かれていたJR広島駅と周辺の再開発を着々と前へ進め、これまで滞りがちだった広島県と市の行政連携を改善させてきた。

 ただ選挙中、立候補した理由を「宿題を解決したい」「まちづくりは道半ば」と自ら強調していたように、残された課題は多い。再選に一息ついている余裕はなかろう。

 有権者に対する本紙の調査で、新市長に求める資質として「リーダーシップ」が最も多かった。2期目で問われるべきは、まさにこの点といえる。

 被爆地から世界にどう核兵器廃絶を訴えていくか。被爆70年の節目に、あらためてその役割に向き合わねばなるまい。

 松井氏は引き続き「迎える平和」を進めるという。被爆地に海外の要人を招き、国際会議を誘致する。むろん、被爆の実相やヒロシマの願いを伝える上で重要な意味を持つに違いない。

 しかし、広島市長ならではの発信力がさらに求められよう。先ごろ、日本政府に核兵器禁止条約の実現に賛同するよう求めた際も遠慮がのぞいた。

 被爆者や市民から批判の声が上がったのは無理もない。核軍縮の動きが後退している今こそ、あらゆる機会に明確なメッセージを出し続けるべきだ。

 都市整備でまず決断を迫られるのは、旧広島市民球場の跡地問題だろう。市は有識者会議の意見などを基に、屋根付きイベント広場を軸にした整備計画案を公表している。一方、市が県などと協議するサッカースタジアム建設の候補地の一つにも挙げられている。

 市民から見るとどうしたいのか分かりにくい。選挙中も松井氏は考えを明確にしなかった。都市のビジョンと関わり、最終的には市が主導して決めるべき案件だ。中心部にある広大な公有地の活用がいつまでも定まらないのなら、首長の力量が問われかねない。

 折しも東京一極集中を打ち破り、地方に人やモノを呼び込む議論が真っ盛りである。拠点都市として求心力を高めていかねばなるまい。県と具体的に連携できるかも鍵となろう。

 昨年8月の土砂災害の復興を着実に進めていくのは当然である。ただ砂防ダムに象徴されるハード整備だけでは街を守れまい。住民による自主防災を強化し、市内全域に広げる手だてが急がれよう。市の危機管理体制も不断に磨いていくべきだ。

 2期目は、この4年の延長線上で施策を進めるだけでは物足りない。実行力がより一層問われてくる。

 1兆円を超える市債残高の圧縮も長年の懸案であるし、市議会と両輪となって市民を向いた政治ができるかも注視したい。緊張感を持って、118万人都市のかじ取りに全力を傾注してほしい。

(2015年4月13日朝刊掲載)

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