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社説・コラム

社説 米キューバ首脳会談 相互不信の連鎖を断て

 まさしく歴史的な対面といえる。米国のオバマ大統領とキューバのカストロ国家評議会議長が中米パナマで会談した。59年ぶりの首脳会談である。国交正常化と双方の大使館再開を目指すことで一致した。

 キューバに社会主義政権が樹立されてから続くカリブ海の冷戦を終えるための重要な一歩だろう。トップ同士が対話によって互いの信頼を醸成していく―。その姿勢は歓迎したい。

 オバマ氏は協調外交の成果をアピールしたかったようだ。対話を重ねて関係を築き、相手に歩み寄りを求める外交手法である。残る任期は2年を切る。今回の握手を自らのレガシー(遺産)としたい思いが強い、というのがもっぱらの見方だ。

 「冷戦は終わった。私が生まれる前に始まった戦いには関心がない」。大統領の言葉はうなずける。キューバを米国の脅威とみなさず、体制を転換しなくても国交を回復させる大胆な譲歩を示した。テロ支援国家指定も解除の運びとなりそうだ。

 問題はこれからだろう。次の一歩となる経済制裁の全面解除にはハードルが待ち受ける。上下両院で多数を占める共和党の反発で、議会の承認が得られるかどうかは不透明だからだ。

 ただキューバに対する長きにわたる制裁については、国連総会が繰り返し圧倒的多数で解除を求める決議をするなど、米国は孤立していた。その点を考えれば、共和党を粘り強く説得することは可能ではないか。

 むろんキューバの側も変わらなくてはならない。

 経済の低迷から抜け出すためにカリブ海を挟んで約150キロしか離れていない米国からの投資を熱望するのは分かる。これまで石油の供給を頼ってきた友好国のベネズエラはこのところ原油安で苦境に立つ。いつまで頼れるのか不安なのだろう。

 米国との関係改善を求めるならまず自国の人権問題に真剣に取り組むべきだ。現在は反体制運動家の弾圧が依然として続き、米国への亡命者も後を絶たない。米国内のキューバ系移民には国交正常化の動きに対する疑念が渦巻いていると聞く。

 カストロ氏は人権や報道の自由も含め、あらゆる課題を議論していくことを首脳会談で表明した。言葉通りに方向転換することを望みたい。ベネズエラやニカラグアなど、中南米の反米左派政権との今後の付き合い方も問われてこよう。

 交渉の行方を不安視する声は確かにあるが、こうした課題を乗り越える意味は国際社会にとっても大きい。この歴史的な握手が相互不信の連鎖を断つ道筋を示すことになるからだ。

 いま国際情勢は明らかに危うさを増しつつある。ロシアや中国による覇権主義的な動き、混迷する中東情勢…。核軍縮の流れも停滞している。

 かつて米ソ間の相互不信が極まった揚げ句、1962年のキューバ危機で核戦争の緊張が高まった歴史を忘れてはならない。同じような危機を繰り返さないためにも、互いの信頼醸成が大きな前提となる。

 折しも米民主党のクリントン前国務長官が大統領選への立候補を表明した。米国とキューバの関係修復も選挙の論点となろう。誰が指導者になろうとも、信頼を育む外交が欠かせないことを肝に銘じてほしい。

(2015年4月14日朝刊掲載)

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